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人が言葉を話せるのは当たり前、ということからわかること

坂本 祐太 坂本 祐太 明治大学 情報コミュニケーション学部 准教授

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日本語と英語の文法はまったく違うと思われがちですが、共通した規則性や法則性があることをご存じでしょうか。それは、言語というものが人類に与えられた共通の「能力」だからではないかと言います。そうした研究から、人とは一体なにか、ということに迫っていくのが、「言語学」です。

言語に関わる様々なことを研究する言語学

坂本 祐太 言語学というと、言葉の歴史や文法を研究する堅い学問と思われがちですが、その研究対象は、実は多岐にわたっています。

 例えば、単純な音の組み合わせなどで擬音や擬態を表すオノマトペは幼稚な言語と思われてきましたが、近年では言語学の研究の対象になっています。

 例えば、「とことこ」と「ことこと」は同じ母音と子音の組み合わせで成り立っていますが、異なる意味で使われます。なぜでしょう。

 実は、最初に「こ」という音がくる言葉と、「と」という音がくる言葉では、受ける印象が異なるのです。その印象は多くの人に共通で、そこから異なる意味として使い分けられているのです。

 そして、「どの音がどの位置にあるとどのような印象になる」というのは、実はある程度規則化できるのではないかと考えられています。

 しかし、なかなか規則では説明できないような事実もあります。例えば、日本人は副詞で泣き、イギリス人は動詞で泣く、などと言われます。英語では泣く様子を表すとき、cryをはじめ、sob、moan、bewail、whimperなど、異なる動詞を用います。

 日本語では、しくしく泣く、めそめそ泣く、すすり泣くなど、泣くという同じ動詞の前にオノマトペを副詞的に用いて表現します。それが、どのように泣いているのかをイメージしやすいわけです。

 この、日本語と英語の表現の違いには文化的な背景があるのではないか、ということも研究されています。

 このように、私たちは、教えられたわけでもないのに自然と身につけ、無意識に使い分けている言葉の使い方というものが、実は、他にもたくさんあります。

 例えば、「氷」と「菓子」がくっつくと「こおりがし」になります。「菓子」が「がし」に変わるわけです。でも、「山」に「火事」がくっついても「やまがじ」にはならず、「やまかじ」です。

 こうした使い分けは文法書に載っているわけではありませんが、私たちが当たり前のように使い分けているのは、そこに、なんらかの規則性があるからと考えられます。

 この規則性を意図的に破ることで、新たな表現にすることもあります。

 例えば、最近の若者の間で、「うれしみ」とか「広み」という言葉が使われています。いわゆる若者言葉ですが、これは、言語学的には語彙的欠落と呼ぶ現象です。

 日本語では、形容詞に「さ」や「み」をつけることで名詞化します。「うれしい」は「うれしさ」に、「広い」は「広さ」なりますし、「高い」は「高さ」「高み」になります。

 でも、「うれしみ」「広み」という名詞はありません。そこには、日本語を母語とする人であれば、誰もが無意識のうちに使い分けている規則があると言えます。

 ところが、実は、「うれしみ」と言ってはいけない理由はないのです。それは、たまたまそうなってきた現象としか言えないのです。だから、「うれしみ」と聞くと違和感はあるものの、意味はイメージできるのです。

 さらに、「み」という音にはやさしい印象、聞き心地の良さがあります。そこで、「み」が許されていない言葉で、敢えて使うことで、面白い表現として受け止められているのではないかと思います。

 こうした、文法書に載っていないような規則性を解明していくのも言語学の領域なのです。

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