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「原価企画」でイノベーションを起こせるか!?

大槻 晴海 大槻 晴海 明治大学 経営学部 准教授

近年、日本の産業界の国際的なプレゼンスは大きく低下したと言われます。その要因のひとつは、日本からイノベーションが生まれなくなっていることです。そこで、かつて日本の産業界から始まった「原価企画」という手法が、イノベーションを生むきっかけになるのではないかと期待されます。

戦略的にコスト管理を図る「原価企画」という手法

大槻 晴海 私たちの周りには様々な製品やサービスがあります。それは、企業などの事業主体が新しい製品やサービスを考え出し、それを新しい技術を使って生み出してきた結果です。

 しかし、私たちの満足はとどまることを知りません。私たちがより良い生活を求める限り、新しい製品やサービスを生み出す営みは未来永劫続いていくはずです。

 その一方で、事業に必要な経営資源―「ヒト」「モノ」「カネ」「ジョウホウ」―は無尽蔵にあるわけではありません。とりわけ企業には、新しい製品やサービスの企画から廃止に至るまで、それらの限られた経営資源を効率的かつ効果的に取得・使用しながら、より多くの利益を獲得していくための創意工夫が求められます。

 そこで、新しい製品やサービスに消費される経営資源をコスト(原価)として捉え、より多くの利益を獲得すべくコストを戦略的にマネジメント(管理)する手法があります。これを「原価企画」と言います。

 そもそも、企業が利益をより多く獲得するための方策はとてもシンプルで、売上を増やすか、コストを下げるか、です。しかし、売上は市場や顧客の動向に左右されてしまうので、企業が自助努力で日常的に管理できるのはコストになります。

 そのため、企業は生産活動や販売活動などによって発生したコストを定期的に集計し、分析し、できるだけ抑えようとしますが、“発生したコスト”はもはや下げられませんし、コストを発生させている仕事のやり方や使用する設備などがすでに決まっている状態では、コストを下げる手立ても限られています。

 それに対して、コストが発生する前に、仕事のやり方や使用する設備などがまだ決まっていない状態で、新製品や新サービスについて将来“発生するであろうコスト”を未然に防ごうと検討することが、大幅なコスト削減、さらにはより多くの利益の獲得へと繋がっていきます。これが原価企画の考え方です。

 しかし、事前にコストを検討することは、言うよりも簡単なことではありません。例えば、新しい製品やサービスについて、消費者に受け入れられる販売価格を設定し、そこから企業が必要とする利益を差し引けば、企業がかけられるコストが出ます。

 しかし、そのコストでは、消費者の期待に応えられるような機能や品質をもった製品やサービスを実現することが難しいかもしれません。かと言って、消費者の期待に応える機能や品質を実現しようとすると、コストが増え、販売価格を上げない限り、企業が必要とする利益が確保できなくなってしまいます。

 そこで、販売価格を上げるとなると、消費者に受け入れてもらえなくなるかもしれません。そのため、販売価格を抑えれば、必要とする利益が確保できなくなり、利益を確保しようとすると、コストを下げなければならず…と、堂々巡りになってしまいます。

 要するに、企業は、消費者が期待する機能や品質を実現しながら、どうすればコストを下げられるかを考えなくてはならないわけです。このように、製品やサービスの価値を高めるために、機能や品質とコストのバランスを探究していくことをVE(Value Engineering:価値工学)と言います。

 原価企画では、社内の様々な部署や社外のサプライヤーから集められた新製品や新サービスの開発プロジェクト・メンバーが、そのようなVEによって、機能・品質・納期などの目標とコストの目標の同時達成を目指し、協働して様々なアイディアを出し創意工夫を凝らしながらコストの引き下げを行います。これを「原価のつくり込み」と言います。

 さらに、新製品や新サービスを開発していく過程では、経営幹部や開発責任者、開発に携わる様々な部署の関係者、さらにはサプライヤーを含む会議を定期的に開催し、機能・品質・納期・コストといった諸目標の達成状況や採算性などをチェックし、開発方針を検討するマイルストーン管理も必要となります。

 開発プロセスを通じてこうした原価企画活動を重ねることによって、製品やサービスの価値を高めるために、無駄なコストを洗い出して削減したり、コストをかけるべきところにかけたりする方策が組織的に編み出されていくのです。

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