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2023.01.11

「原価企画」でイノベーションを起こせるか!?

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コスト(お金)を意識することで新たに見えてくる世界がある

 近年の企業経営においては、環境や社会に配慮することが課題になっていますが、そうした点でも原価企画は有効です。

 例えば、かつて、公害という大きな社会問題を経験した日本の産業界は、環境汚染や破壊が、企業にとっても、社会にとっても、大きなコストに繋がることを知っています。

 そこで、製品やサービスを生産し提供する際に、環境に有害な物質を出さないとか、環境に優しい素材やエネルギーを使うなどの取り組みが、将来のコストの発生を未然に防ぐという考え方から生まれてきます。

 最近よく耳にする循環型社会の実現は、一見、従来のやり方よりもコストがかかるように思われがちですが、実はその逆であることが原価企画を通して見えてくるのです。

 そうしたコスト管理は、先に述べたように、限られた資源を効率的かつ効果的に使用していくことに繋がるとともに、持続可能な発展を目指すSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の達成に企業が貢献することにも繋がっていきます。

 ところで、原価企画は会計学の研究対象ですが、「会計」というと、小難しいイメージで敬遠する人も多いかと思います。しかし、会計を通じて、私たちの生活が環境や社会に与える影響をお金という誰でもわかる単位で把握して分析することは、見えにくい様々なことを見えやすくすることでもあり、私たちの日常生活の改善や見直しにも役立つものです。

 例えば、家計簿をしっかりつけていなくても、ほとんどの人は、支出オーバーにならないように、毎月の収入と支出のバランスをとるように調整していると思います。

 また、掛け捨ての保険などは、一見、無駄のようですが、将来、病気や事故で発生するかもしれないコストに対する備えとして必要と感じ加入しているはずです。

 そのような考えや行動は、私たちに自然に身に付いている会計の素養です。そして、会計の視点から、自分自身や身の回りの出来事について眺めてみると、至る所に、無駄なコストがあることや、無駄なコストを省くための創意工夫があることが見えてくると思います。

 例えば、回転寿司店に行くと、回転レーンなどによる配膳や、お客自身によるタッチパネルやスマホでの注文といったような、スタッフの人件費やミスによる損失を抑える工夫が見られます。そして、そのことがまた、お客にとっての利便性やエンターテイメント性にも繋がっていて、楽しくお寿司を食べられるようになっているばかりか、料理の価格が安く抑えられている秘密ともなっています。

 このように、会計の視点から見れば、今まで気がつかなかった企業の様々な創意工夫や努力が見えてきたり、逆に、ただ目新しい技術だからと使いもしないのに無駄に取り入れられているものなども見えてきたりします。

 会計は私たちにとって実に身近なものです。会計の起源は紀元前3,500年頃の古代メソポタミアに遡るとも言われており、それ以来、ずっと私たちの生活とともにあります。会計を毛嫌いせず、皆さんも、ぜひ、会計の視点から物事を見て、新しい発見をしてみてください。


英語版はこちら

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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