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顧客と企業が協働して価値を生み出す ―協働型マーケティングの時代―

上原 征彦 上原 征彦 明治大学 専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授(2018年3月退任)

“顧客づくり”こそが企業戦略の要

上原征彦教授 私は「マーケティング」と「経営戦略」を主たる研究対象としている。端的に言えば、市場で成功するための経営戦略は何か、ということだ。経営戦略において重要な要素は3つある。「金づくり」(ファイナンス)、「組織づくり」(マネジメント)、そして「顧客づくり」(マーケティング)だ。いずれも不可欠であるが、私は「顧客づくり」が最も重要だと考えている。そもそも、顧客がいなければ企業は存在できない。そして、この「顧客づくり」の中核となるのがマーケティングである。「顧客づくり」とは、言い換えれば需要を創造することだ。ここで肝心なのが、“実需”を生み出すことが、企業の成長を促すということである。たとえば、現在の政府の取り組みを見てみよう。「アベノミクス」の名のもと、資金を市場に流す金融政策があり、公共投資等を促進させる財政政策があるが、これらが“仮需”の創造に終わらないことを祈っている。お金が流れていると、あたかも成長しているように見えるだけだ。では、真の成長を実現する“実需”を生み出すために、何が必要とされるかが問われてくる。それは“顧客と関係をもつ”ことなのである。

商店街活性化にみる“実需”の創造

 “顧客と関係をもつ”、その一つのカタチをある商店街の例で示してみたい。近年、全国の地方都市では中央商店街に空き店舗が増えている。商店街の活性化のためには、この空き店舗に商業施設を誘致するよりも、需要をつくり出すことの方が重要だ。なぜ空き店舗は生まれたのか。それは需要が供給より少ないから、空き店舗が出来たのである。その商店街も空き店舗が増え、対策に頭を悩ませていた。古い考えであれば、集客力の高い新たな店舗を誘致する方向にいくところだが、その商店街は違った。空き店舗のスペースを“街のコンシェルジェ”とし、客と交流をし始めたのだ。つまり、会話を通して客が何を求めているか、ニーズを明確にしていく取り組みである。その結果、子育てや老後の生活などにおいて、多様なニーズがあることがわかった。保育園の送り迎えの際の留守番や買い物代行、電球取り換えなど生活での不具合対応、お年寄りへの朗読、家庭料理を通した交流等々。そしてこれらの“実需”に応えるために顧客の中からもサービス提供者が多数現れて、新しい仕事が生まれ、街の活性化の一助になった。この例でわかるように、“実需”を生み出すために必要なことは、顧客と一緒になって価値を創造することなのである。「協働型マーケティング」と呼ばれるものだ。

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