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ニューノーマル時代、社会を幸せにする広告作りは可能か?

小野 雅琴 小野 雅琴 明治大学 国際日本学部 専任講師

広告のコンテンツ化

 それでは、どうしたらよいでしょうか。確認ですが、目標はいたって単純です。広告を含むマーケティングの(中間)目標は、顧客を満足させることです。広告について言えば、顧客一人ひとりのニーズに合致した有用な情報を届けたり、それ自体が楽しく感動的なエンターテインメントであるような広告コンテンツを届けたりすることによって、最終的には顧客一人一人にとっての満ち足りた気持をなす一助となることを目指すことになります。そして、OTT業界における広告は、インターネットを媒介して提供されるわけで、その際、個人情報が侵害されたような不安な感覚という副作用を伴わないことも無論のことです。

 それでは、この目標を達成するには、どうしたらよいでしょうか。その手段の1つは、広告のコンテンツ化です。ここでのコンテンツとは、視聴者が取得を望む情報のことです。インターネット時代、視聴者は、歩きスマホや、ながら視聴という言葉に代表するように、時を惜しんでコンテンツの取得にいそしんでいます。広告という一種のコンテンツが、回避対象になるとしたら、それは、取得したいコンテンツではないからです。顧客ニーズに合致したコンテンツになること、それが、広告のコンテンツ化です。

 このアイディアは、実はかなり古くから存在します。高級レストランのガイドブック「ミシュランガイド」は、フランスのタイヤメーカー、ミシュランが出版しています。なぜタイヤを作るメーカーが本を作ったのでしょうか。それは、おいしい料理を食べに、車を走らせると、タイヤが摩耗するからです。タイヤを買ってもらうために、おいしい料理を食べに行ってもらう――そのために、ガイドブックを出版したのです。この伝説的なエピソードは、タイヤを買ってくださいと呼びかけるのではなく、自動車に乗ってタイヤを摩耗させてくださいと呼びかけるのでもなく、おいしい料理がありますよ、出かけてみませんか、という情報コンテンツをもってして、その目的を果たすことの重要性を物語っています。

 今、そのような顧客を魅了するコンテンツの提供機会は、書籍出版という大がかりな企画に限らず、ネット上のささやかな動画配信企画や、一層ささやかなチャット企画として、あちこちに転がっています。そうした機会を捉えて、従来型の広告に替わるコンテンツを視聴した市民の生活に何らかの変化をもたらし、そうした新たな市民生活に彩(いろどり)を添えるものとして自社製品を利用してもらえるように、そっと提供される情報として「コンテンツ化された広告」を開発することが、社会に幸せをもたらすべき広告主たる企業の使命ではないかと私は感じています。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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