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2022.03.16

ニューノーマル時代、社会を幸せにする広告作りは可能か?

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広告回避問題

 ここでちょっとした広告業界用語を幾つかご紹介します。まずは、OTT。これは、over the topの略記で、従来の放送電波やケーブルTV設備に頼らない、インターネット経由の動画番組コンテンツの配信サービスのことです。

 このサービスは、2種類に大別されます。1つは、サブスクモデルです。これは前項で述べた、NetflixやAmazon Prime Videoのような定額動画配信サービスです。サブスク(定額)という点だけでなく、VOD(video on demand)、つまり、視聴したい時に視聴できる、という点も先述のとおりです。

 他方、AVOD:ad-supported VODと呼ばれる種類のOTTもあります。つまり、無料である代わりに、広告視聴を動画コンテンツ提供の見返りとするような従来型のビジネスモデルを採用したVODです。この代表格はYouTubeです。

 テレビとテレビ広告が、メディアや広告主からの一方的な視聴の提案であるのに対して、VODとVOD広告は、いずれも双方向的です。この双方向性は、2つの特長を生み出していると考えられます。

 第1は、広告視聴に対する視聴者の自己効力感です。AVODは、テレビと違って、一部の広告をスキップする機能を持っており、視聴者側に広告を視聴するかしないかを選択する権利を与えています。視聴者は、広告が自分にとって有用な情報だと思ったら、あるいは、広告が付加された動画コンテンツを応援したいと思ったら、自分の意志で、広告を視聴することを選ぶことができるのです。

 第2は、広告のパーソナライゼーションです。VODは、視聴者がどのような動画や広告を好む人であるかを解析し、一方では、オススメ動画を推奨し、他方では、個々人にとって関心がありそうな広告を選んで配信しています。視聴者個々人にとっては、画一的なTV広告に比べて自分にとって有用な製品情報を取得しやすいというメリットとなりうるというわけです。

 いま、従来のメディアにおいても、新しいメディアにおいても、しばしば問題となっているのは、広告回避問題です。動画コンテンツの視聴者が、広告を忌み嫌い、その視聴を回避してしまうということです。

 冒頭で述べたように、微々たる視聴料を支払うことによって広告のない快適な動画視聴が可能であることを知った多くの日本人は、現在、広告を非常に煩わしい存在であると見なすようになってしまいました。そんな状況で、望まない広告を放映してしまうと、無視されたり、スキップボタンを押されたりするだけでなく、SNSを介して苦情が表明されたりしてしまいます。

 こうした広告回避傾向は、広告収入を当てにする従来型のメディア、ひいては広告主のビジネスを成り立たなくするので、視聴者にとっても、広告視聴を回避しつづければ、長い目で見れば、メディアや広告主が衰退して、コンテンツや製品を楽しむことができなくなることに繋がります。だからといって、我慢して広告視聴を続けるのなら、それは視聴者、メディア、広告主のいずれにとっても無益で、不幸な事態だと言えるでしょう。

英語版はこちら

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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