「BOPビジネス」とは何か
企業活動を通じて途上国の社会問題を解決するという考えは、1990年代の後半から提唱されてきたが、その背景にはベルリンの壁崩壊、それに続くソビエト連邦の崩壊があったと考えられる。貧富の差をはじめとした資本主義が生み出す弊害・社会問題を解決するため、20世紀、人類は統制経済による社会主義国家の建設という壮大な実験を行った。しかし1980年代後半、社会主義は幻想であったことが露呈し、世界地図から多くの社会主義国家が消えていった。そうした事態において人類は、資本主義の枠組みの中で社会問題を解決することを迫られたのである。そこで提唱されたのが「BOPビジネス」だ。
「BOP」とはBase of the Pyramidの略である。世界の所得別人口構成の中で、最も収入が低い所得層を指す言葉であり、一人当たり年間所得が2002年購買力平価で3,000ドル以下の階層で、全世界の人口の約70%である40億人がここに該当するといわれている。その市場規模は5兆ドルに上るとされ、企業が途上国において「BOP層」を対象に持続可能性のあるビジネスを行いつつ、生活改善や社会問題の解決を達成する取り組みが「BOPビジネス」である。
従来、途上国の貧困層を支援するのは、食糧援助や資金援助を中心に行われてきた。しかしそれらは一過性のものにすぎない。「BOPビジネス」をわかりやすくいえば、空腹の人に魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えることである。「BOPビジネス」が成功すれば、現地の人たちは貧困から脱却して自立し、新たな消費者となり、新しい市場も生まれる。社会問題の解決と企業の収益確保の両立を実現し、WIN-WINの関係を構築することが「BOPビジネス」の核心にある。では、日本企業はどのような「BOPビジネス」を展開しているか、いくつかの例を紹介したい。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。