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2021.07.09

貿易金融がなければ、リスクに満ちた貿易が発展することはなかった

貿易金融がなければ、リスクに満ちた貿易が発展することはなかった
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グローバル化が進む今日、国際貿易はこれまで以上に無くてはならない経済活動になっています。この貿易をスムーズに行うために金融が担っている役割は非常に大きいのですが、貿易の金融面に関する学術的な研究はまだ十分に進んでいないと言います。そのナレッジギャップを埋めることを目指す研究室が本学にあります。

貿易には、日常の売買とは異なるリスクがある

努尓買買提 依克山 経済のグローバル化が進む今日、国際貿易はなくてはならないもの、あって当たり前、ということは、多くの方が認識していると思います。でも、貿易がどのような仕組みで行われているか、意外と知られていないのではないでしょうか。

 実は、貿易には様々なリスクが存在します。

 例えば、私たちがコンビニなどで買い物する場合は、代金を払うことと、商品を受け取ることがほぼ同時に進行します。これをDelivery Versus Paymentという呼び方をしたりします。

 この場合、買う側からすると、代金を払って商品を受け取るまでの間に、その商品が損傷したり、それを受け取れなくなるようなことは、ほぼ起こらないわけです。

 ところが、貿易の場合は、取引相手は国外にいます。法制度や通貨が違う以前に、単純に物理的に離れているので、注文した財を受け取るまでに輸送時間が比較的長くかかることになります。

 すると、その間に財が損傷したり、紛失するような事態が発生するかもしれません。そこで、こうした輸送リスクに備えるために、貨物海上保険などがあるわけです。

 貿易に関わったことがない人でも、輸送する財に保険をかけることは理解しやすいと思います。では、貿易代金の支払に関してはどうでしょう。

 輸出する側にとっては、できるだけ早く代金の支払いを受けるのが理想であり、発注を受けた段階や、例えば少なくとも、財を生産し、それを貨物船に乗せた段階で代金を払ってほしいと考えるでしょう。

 しかし、輸入側からすると、できるだけ支払いを引き延ばしたいと考えられ、財が自分の手元に届き、それが発注したもので間違いないか、その他細々を確認するまでは代金を払いたくないと考えるでしょう。

 ポイントは、輸出側と輸入側に、本当に代金は支払われるのか、本当に注文したとおりの財が届くのか、という思いがあり、それは貿易を行う上でのリスクでもあるわけです。

 すると、極端な場合、輸出側は絶対先払いにしてほしい、輸入側は後払いでなければダメだということになります。

 この両者間に取引の積み重ねなどがあり、互いに信頼関係があれば、こうしたリスクは払拭されるかもしれません。しかし、そうした信頼関係を築かないと貿易ができないとなると、新たな貿易の流れが生まれなくなり、貿易が活性化されません。

 そこで、こうしたリスクを回避するために考え出されたのが、貿易金融という仕組みです。

 貿易金融の考え方のエッセンスは、金融機関が貿易取引の当事者同士の間に入ることにより、取引をする互いにとって、先払いでもあり、後払いでもあるようになる仕組みを提供することです。

 この仕組みは、19世紀の中頃には原型となるものが始まっており、時代とともに洗練化されていきました。

 現代では、財に貨物保険をかけないような輸送は考えられないのと同じように、貿易金融を行わない取引は考えられないほど、貿易実務において当たり前の仕組みになっています。

英語版はこちら

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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