
>>英語版はこちら(English) 日本では1990年代後半以降、出版市場の縮小が続き、出版不況と言われています。その要因として、人々の活字離れや、電子書籍の台頭、図書館の本の貸し出しなどが指摘されますが、本当にそうなのでしょうか。むしろ、再販売価格維持制度をはじめとする出版産業の制度や慣習に問題がある、という指摘があります。
国によって異なる再販売価格維持制度
日本の出版市場は年々減少し続けています。紙の出版物の販売額は1996年をピークに、最近では、その半分にまで落ち込んでいます。
一方、アメリカやヨーロッパの国々の出版市場は、90年代以降も堅調に推移し、近年、縮小が見られるものの、日本ほどの減少ではありません。
日本と各国の出版産業の違いとして、まず、挙げられるのが、再販売価格維持制度です。
日本では、書籍カバーに価格が印刷されていますが、スーパーで売られている日用品などの本体に価格が印刷されることはありません。それは、スーパー側で販売価格を決めるからです。しかし、書籍は、その価格を出版社が決めているため、印刷して販売できるのです。
つまり、書籍の価格は出版社が決定し、書店は書籍の価格を変えることができません。これが再販売価格維持ですが、小売店の価格設定権を奪うことは、独占禁止法によって禁止されています。しかし、書籍や新聞、音楽CDなどは、例外的措置として、再販売価格維持が認められているのです。
これは、日本では、戦後に法律で明文化されましたが、それ以前から出版産業の慣習として存在していました。
著作物に対し再販売価格維持の適用を認めた理由として、多様な出版物は私たちの文化であり、それを値崩れすることなく同一価格で販売することで、文化水準を維持しようという考え方と言われています。
また、価格競争によって書店が潰れることを防ぐためともされています。通販や電子書籍がなかった時代は、身近に書店がなくなってしまうと、本を買うのも大変なことになってしまうのです。
こうした意図から明文化された再販売価格維持制度ですが、その意図に即した成果を上げているかについて、日本で検証されたことはほとんどありません。日本だけでなく世界各国にも、この制度の適用例はあります。しかし、その運用は日本に比べると、緩やかであり、また、制度を廃止した国もあります。
アメリカでは、再販売価格維持を適用した歴史はなく、イギリスは1990年代に廃止し、書店が価格を設定できるようにしました。今となっては、同じ英語圏であるアメリカから価格が拘束されない書籍が流入するため、イギリス国内の出版社にだけ再販売価格維持を認めることは、現実的ではないと言えます。
また、ドイツやフランスなどでは再販売価格維持制度が適用されていますが、出版社の価格拘束に期間が設けられています。
これは日本では時限再販と言い、海外では販売を始めて半年から2年ほどで、書店が価格を変更できるようになっています。
実際に、再販売価格維持制度を廃止したイギリスや、運用が日本より緩やかなドイツやフランスなどで、日本を上回る書店数の減少があったわけではありません。
むしろ、最初に述べたように、日本の出版市場が縮小し始めた1990年代以降も、各国の市場は堅調に推移していたのです。
では、なぜ、日本の出版市場は縮小を続けているのでしょう。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。