制度や慣習にとらわれるのではなく見直すことが必要
再販売価格維持制度を廃止した国や、運用が緩やかな国の出版産業では、価格設定において経済原理が働きます。
例えば、多くの新刊本は、発売から半年くらい経つとほとんど売れなくなるのですが、そこで、書籍価格を下げることで、販売が増える可能性があります。
比較的新しい中古本を安価で販売する新古書店の成長が、消費者の行動を裏付けています。ドイツやフランスの時限再販は、そうした消費者心理を反映しているわけです。
一方、日本の書店は書籍の価格を決めることができませんが、売れ残った書籍は出版社に返品できます。現在では、発行された書籍の3分の1は出版社に返品されます。そのようなシステムでは、出版社にも書店にも、経済原理が働く余地はありません。
出版社の価格設定方式も、欧米とは異なります。欧米では、人気があって大量に売れると見込まれる小説などは非常に安く設定されています。買いやすい価格にして大量に売るためです。
一方、欧米の学術書は高く設定されます。研究者や図書館など、売れる数は限られていますが、買う人は高くても買うからです。
欧米の出版社は、こうした経済原理に即した価格設定をすることで、より確実に利潤を上げることができるのです。
ところが、日本の出版社は、欧米で日本円に換算して1万5千円程度で販売されている英語の学術書を翻訳し、5千円くらいで販売するのです。良心的と言えばそうなのですが、得られる利潤をみすみす手放しているとも言えます。
また、日本の出版社は、出版不況と言われるようになり、収入の減少を補うため、発行するタイトル数を増やしました。そのため、必然的にタイトル当たりに費やす企画や編集の時間は減少することになります。
結果的に内容が類似する書籍が多数発行され、新刊点数は増えても、1タイトルあたりの売り上げ数は減る、という悪循環に陥ったのです。
こうしたことの要因の一つは、日本の出版社に経済原理に即した感覚が希薄であることによるものであり、再販売価格維持制度がその足かせになっているのなら、諸外国の事例を参照することも必要だと思います。
書籍は、知識を豊かにしてくれるのはもちろん、心を豊かにしてくれるものでもあります。
毎日、書類や資料、仕事関係の書籍などを読まなくてはならないビジネスマンも多いと思いますが、例えば、通勤時間に、仕事とはまったく違うジャンルの小説などを読んでみると、頭の中が切り替えられて、ちょうど良い気分転換になったりします。
日本の出版社には、制度や慣習にとらわれるのではなく、これを見直し、時代に即した新たな発想を生んで欲しいと思っています。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。