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農作物の被害を減らす最新技術は植物自体から学んだもの

大里 修一 大里 修一 明治大学 農学部 准教授

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遺伝子組換え技術を使った農産物が日本国内でも流通するようになり、不安を感じるという人も多いようです。しかし、そもそも、遺伝子組換えとはどういった技術で、なんのために行われているのか、あまり正確に知られていないようです。さらに、その技術は進化していて、本学でもその研究が行われています。

植物には病原体に抵抗する独自の仕組みがある

大里 修一 これは、教科書などにも記載されていることですが、世界的にみて、病害虫や雑草害によって、本来、生産されていたであろう農作物の約36%が失われていると言われます。

 これは決して少ない量ではありませんし、いまに始まったことでもありません。そこで、こうした被害を減らすために、人類は昔から様々な工夫を行ってきたのです。

 植物が病気に罹るとき、そこには、主因(病原体)、素因(植物の病気への罹りやすさ)、誘因(発病するための環境要因)があります。実は、この3つの要素のうちのひとつでも揃わなければ、植物は病気にならないのです。

 そこで、人類は、まず、主因である病原体を排除することに力を注いできました。その結果、最も有効な方法になったのが化学農薬です。

 しかし、農薬は環境に影響を及ぼすことが懸念されるようになってきました。また、例えば、稲の最重要病害をおこすイネいもち病菌は、様々な化学農薬に対して耐性を獲得して、すぐに薬が効かなくなってしまいます。

 そこで、植物病理学では、病原体に対する植物の抵抗性の仕組みを知り、それを利用することで病気に負けない植物を創ることを考えてきたのです。すなわち、主因だけでなく、病気に罹る素因を減らすという考え方です。

 植物は、哺乳類が病原体などの外敵から身を守るために発達させた免疫系はありません。したがって、現在、人類がコロナウイルスと戦うために使われる抗体を作るような機能は持っていません。そこで、植物は独自の仕組みを進化させてきました。

 まず、植物細胞と動物細胞を比べたとき、植物は細胞壁をもっています。実は、植物の周りに存在するほとんどの微生物は、この植物細胞壁を突破することができないのです。つまり、我々の周囲に存在する多くの微生物は、植物から栄養を得ることができない、タダの微生物ということになります。

 それでも、植物細胞壁を溶かしたり、貫入したり壊して侵入する者もいます。植物から栄養を得ることができる微生物は、植物病原菌と呼ばれます。

 植物は病原体を直接攻撃する先在性の抗菌物質を備えています。ある病原体は植物に付着すると、6時間ほどで細胞の中に侵入します。そこで、植物は抗菌物質をある程度作り、蓄えていて、それで速やかに攻撃するのです。しかし、病原体の中には負けずに侵入を続けようとするものがいます。すると植物は、先在性のものよりも強力な抗菌物質を合成し、それで攻撃する仕組みも持っています。それは非常に優れた攻撃手段です。

 植物はもっと大胆な方法を取る場合もあります。例えば、植物ウイルスは侵入した細胞から栄養を摂って増殖します。それに対して植物側は、外敵の侵入を受けた細胞が自ら積極的に死ぬという仕組みをもっています。つまり、死ぬことによって侵入者の増殖を防ぐのです。

 一方、病原体は、植物に見つからないように密かに植物細胞へ忍び込む仕組みを発達させ、進化したものもいます。密かに、侵入するため、植物は病原体の侵入に気付かず、抗菌物質を合成したり、自爆して侵入者を防ぐことができないのです。

 植物が侵入者を見つけたり、見つけられなかったりする仕組みについて、近年、研究が進み、植物は、様々な病原体が共通でもつ分子、PAMPsを認識することがわかってきました。病原体を認識する感知センサーであり、植物は絶えず、病原菌の侵入をモニターしているのです。しかし、同時に、一部の病原体はその感知センサーをかいくぐることができることもわかってきました。

 このように植物と病原菌は、相互作用を繰り返しながら、進化してきました。これを共進化といいます。進化スピードが速い病原菌に対し、植物はいろいろな仕組みを獲得し、複雑な防衛機構を構築して現在に至ります。

 動くことができず、一見、無防備に見える植物も、このように様々な仕組みで病原体に抵抗し、自分の身を守っているのです。

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