明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト

農作物の被害を減らす最新技術は植物自体から学んだもの

大里 修一 大里 修一 明治大学 農学部 准教授

本学も取り組む最新技術、TAQingシステム

 新しい分子育種法の最新研究のひとつとして、TAQingシステムがあります。

 現在、盛んに研究されているゲノム編集は狙ったDNAを正確に切ることがポイントになります。しかし、植物の病原体に対する抵抗性の向上は、ひとつの遺伝子の組み換えだけで得られるものではありません。抵抗の仕組みは複数の遺伝子による複雑なネットワークで形成されています。

 しかし、遺伝子をひとつひとつ組み換えながら確認していく作業だと、やはり、手間と時間がかかります。そこで、一度に複数の遺伝子やDNA領域を切ったらどうなるか、という発想から始まったのがTAQingシステムです。つまり、より大きな変化が期待できるわけです。

 また、自然界における遺伝子組換えは、父方と母方の遺伝子を子に受け継ぐ減数分裂のときに起きますが、TAQingシステムでは、それを減数分裂時に限らず、体細胞レベルで起こします。

 植物はもともと似た遺伝子をたくさん持っているので、体細胞の遺伝子に損傷が起これば、似た遺伝子で修復しようとします。それが、新たな形質を獲得するチャンスになるのです。

 とはいえ、TAQingシステムはまだまだ始まったばかりの研究で、私たちの研究チームも基礎研究の段階です。

 いまは失敗することがほとんどですが、トライアルアンドエラーの積み重ねの中から、人類は様々な技術を発展させてきました。農作物の耐病性育種も、こうした地道な研究から成果を出し、被害を減らしていくことに繋げられると考えています。

 研究は失敗の連続ですが、それがピラミッドの底辺のように広がり、積み重なることで、高い頂点が成果として残ります。ビジネスをはじめ、皆さんの様々な仕事も同じだと思います。

 私たち研究者も、一度や二度の失敗にめげず、それは頂点に達するために必要なことという思いで、歩みを止めず頂点を目指しています。

>>英語版はこちら(English)

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

ビジネスの関連記事

ポストコロナ時代における地方金融機関の「新ビジネス」とは

2024.3.21

ポストコロナ時代における地方金融機関の「新ビジネス」とは

  • 明治大学 商学部 教授
  • 浅井 義裕
ESGやサステナビリティだけ分析しても意味がない?

2024.2.8

ESGやサステナビリティだけ分析しても意味がない?

  • 明治大学 商学部 教授
  • 奈良 沙織
老舗ブランド経営~日本の持続可能性に向けて

2023.11.30

老舗ブランド経営~日本の持続可能性に向けて

  • 明治大学 専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授
  • 首藤 明敏
なぜ「哲学的思考」はビジネスで活きるのか

2023.10.25

なぜ「哲学的思考」はビジネスで活きるのか

  • 明治大学 経営学部 専任講師
  • 畑 一成
サービスの発想はサステナビリティに通じる

2023.7.19

サービスの発想はサステナビリティに通じる

  • 明治大学専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授
  • 戸谷 圭子

新着記事

2024.03.21

ポストコロナ時代における地方金融機関の「新ビジネス」とは

2024.03.20

就職氷河期で変わった「当たり前の未来」

2024.03.14

「道の駅」には、地域活性化の拠点となるポテンシャルがある

2024.03.13

興味関心を深めて体系化させれば「道の駅」も学問になる

2024.03.07

行政法学で見る「AIの現在地」~規制と利活用の両面から

人気記事ランキング

1

2020.04.01

歴史を紐解くと見えてくる、台湾の親日の複雑な思い

2

2023.12.20

漆の研究でコーヒーを科学する。異色の共同研究から考える、これか…

3

2023.09.12

【徹底討論】大人をしあわせにする、“学び続ける力”と“学び続けられ…

4

2023.12.25

【QuizKnock須貝さんと学ぶ】「愛ある金融」で社会が変わる、もっと…

5

2023.09.27

百聞は“一食”にしかず!藤森慎吾さんが衝撃体験した味覚メディアの…

連載記事