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課題は地域にあり ―求められる自治体議会の改革と住民・行政の「協働」―

  • 明治大学 政治経済学部 教授
  • 牛山 久仁彦

身近な問題に応える地方自治

牛山久仁彦教授 最近、自治体議会を舞台にしたニュースをよく耳にする。都議会議員のセクハラ発言、兵庫県議の政務活動費問題など、いずれも由々しき問題ではあるが、ただ議員を批判するのではなく、有権者の責任も問われるべきだろう。地方自治は、「民主主義の最良の学校」であることを忘れてはならないだろう。また、近年、自治体をめぐる論議の中で注目されているものの一つに「道州制」があるが、私は慎重であるべきと考えている。地方分権の進展などのメリットはあるが、実際問題、たとえば「関東州」で地方自治が本当にできるのか、大いに疑問である。東京が州都になれば東京とその周辺の声ばかりが重視され、県庁を失った地域の声が軽視されることになりかねない。道州制によって、州都から遠く離れて住む住民、小さな町村などを支えられるかもはなはだ疑問である。
来年は統一地方選挙が行われる年である。今年、後半には福島、沖縄知事選挙もある。地域の問題は国政とリンクしてくる部分も少なくないため、地方自治や自治体選挙を政治的な対立軸で見る向きもあるが、本来の地方自治の選挙には似つかわしくない。昨今の自治体選挙では、首長立候補者の多くは「無所属」である。候補者の政策を吟味し、それぞれの地域で争点となる身近な問題に応えてくれる候補者、地方分権の時代に相応しい候補者を選ぶべきだろう。ここでは、そのような状況を踏まえ、地方自治について考え、これからのあるべき姿について問題提起したい。

地方分権が求める自治体改革

 1990年代以降、日本の地方分権改革は一定の進展をみせてきた。一つの節目となったのが、2000年4月に施行された地方分権一括法である。地方にとって、自治体統制の手段でもあった機関委任事務の廃止、国から地方への権限移譲などが盛り込まれた法改正は、中央集権型行政システムを地方分権型へと転換することを目指したものだった。それ以降、国から地方への財源移譲を含む、いわゆる三位一体改革の実施や市町村大合併による自治体の大規模化は、功罪があることを忘れてはならないが、地方分権の「受け皿」を自治体に期待するものでもある。
国内外の環境が急速に変化していく中、従来の中央集権型行政システムでは、的確かつ迅速な対応は一層困難となりつつある。また地域が抱える課題は自治体によってそれぞれに違い、地域の問題は地域で解決することが求められている。こうした背景のもと、地方分権改革は今後も進められなければならないが、重要なことは、地方分権改革によって変わらなければならないのは自治体の現場であるということだろう。地方分権改革の推進は、自治体側の努力や力量の拡大なくしては完結しないのであり、そこには、自治体政府の政策形成能力が必然的に求められてくる。

自治体のシステムは二元代表制

 政策形成能力という視点から、私が指摘したいことの一つに自治体議会の問題がある。行政サイドの分権化は進みつつあるが、その一方で自治体議会の改革は行政の分権化ほどには進んでいないと思われるからだ。そして、改めて確認しておきたいのが、自治体の仕組みは国と異なっていることである。地方自治体は、議決機関である議会と自治体の首長が、直接住民の選挙で選ばれ、首長と議会それぞれが住民を代表し、住民に対して責任を負う二元代表制のシステムを採用している。いわゆる、大統領制に近い制度である。したがって首長と議会は、もともと民意代表機関としてお互いに対立・競争する関係にある(機関対立型)。議院内閣制を採用する国の場合、国会と内閣の間には与野党関係が形成され、与党は内閣と協調的な関係を持ち(機関協調型)、野党は内閣に批判的な立場に立つという構図になる。そして、国と異なり、首長と議会が対立・競争する関係にあるのが、自治体の政治システムであることを十分認識する必要がある。しかし現状は、自治体のリーダーシップは首長に独占されているところが多く、議会は相変わらず行政の承認機関的存在に甘んじているという感をぬぐえない。

自治体議会の機能と役割

 そこで、自治体議会の機能は何かということが問われてくる。その一つは大きな権限を持つ首長に対して、その政策決定・実施を監視、チェックする機能だろう。日本の自治体政治はアメリカの大統領制とは異なり、首長に予算案や条例案の提出権、不信任案に対抗する議会の解散権など、自らの政策実現のための積極的な権限が与えられており、結果として首長の権限は強くなっている。大胆な施策や発言によってマスコミを賑わせる強い首長が登場するのも、そうした制度や地方分権による権限拡大があるからだ。首長の権限が大きいことには良い面も悪い面もあるが、いずれにせよ、首長の独走を歯止めする抑止力としての機能、役割を議会が担わなければ、民主的統制が効かなくなる。
さらに議会に求められるのが、先にのべた政策形成能力である。以前、ある県議会が34年ぶりに議員立法を行ったことが話題になったが、そのことに象徴されるように、これまで多くの自治体議会は、政策形成や自治立法に積極的な姿勢を示してこなかったといえる。だがここにきて、条例・法令策定をはじめ、政策形成に取り組む自治体議会が増えてきているのも事実である。地域の課題を地域で解決するための政策を、首長と議会が、対等な立場で熟議し磨き上げていくことが二元代表制の本来の姿であろう。自治体議会の復権が地方分権が成功するかどうかの鍵を握っているといえよう。

求められる「協働型自治体経営」

牛山久仁彦教授 地方分権改革の推進には自治体政府の力量拡大が求められるが、それは地域社会に暮らす住民にも問われてくることだ。そこで求められてくるのが、住民と行政の「協働」である。自治体行政は、深刻な財政危機の中、かつてのようなバラマキ型の行財政運営が困難であり、多くの住民が望む施策に効率的に財源を配分していかなければ、自治体運営がままならない状況が生まれている。また財政危機は行政サービスの供給側が多様化することを必然のものとした。こうしたことが地域社会における住民の役割を変化させ、住民と行政の「協働」が必要とされる背景にある。
具体的には、政策形成の過程に市民が参加する「協働」があり、すでに全国の自治体で具体化しつつある。地方自治の本質ともいうべき住民自治を進める観点からも、住民と行政の「協働」による政策形成を進めることは重要である。もう一つの「協働」が、公共サービスの提供である。すでに高齢者介護や子育て支援の現場で、多くのNPOや市民が公共サービスを担い、重要な役割を果たしているのは周知の通りである。もともと、日本では、自治会・町内会などが地域社会の課題解決に大きな役割を果たしてきた。こうした地縁的団体などのコミュニティの再生を含め、共に支える共助型の社会が求められている。今後、少子高齢化・人口減少社会が進展していく中、地域社会に暮らす住民の身近な様々な問題の解決に向け、住民と行政の「協働」が一層必要とされてくるだろう。
こうしたことを踏まえ、これからの地方自治にあっては、権限と財源を備え、高い政策形成能力をもった自治体行政、民意を的確に反映し熟議によって政策を磨き上げる自治体議会、そして、参加と協働によって自助・共助を担う自治体住民、これらによる「協働型自治体経営」が、求められているのである。

※掲載内容は2014年8月時点の情報です。

※M's Opinionの記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

プロフィール

牛山 久仁彦

明治大学 政治経済学部 教授

研究分野
行政学・地方自治論・地域政治論
研究テーマ
地方分権改革と地方政府、自治体経営改革と地方政府再編
主な著書・論文
  • 『国家と社会の政治経済学』(編著・2013年・芦書房)
  • 『自治体議会の課題と争点』(編著・2012年・芦書房)
  • 『分権時代の地方自治』(編著・2007年・三省堂)
  • 『広域行政と自治体経営』(編著・2003年・ぎょうせい)
  • 「市町村の合併と連合」『法学新報』100巻5・6号 他多数

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