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一冊の本が与えてくれた、科学者として生きる希望

長竹 貴広 長竹 貴広 明治大学 農学部 准教授

考え方や価値観が変わるほどの出来事に遭遇したら、それは成長へのチャンス。明治大学の教授陣が体験した人生のターニングポイントから、暮らしや仕事を好転させるヒントを探ります。

教授陣によるリレーコラム/⼈⽣のターニングポイント【6】

「君たち、これから理系に進むのであれば、この本を読んだ方が良い」。高校時代のある日、こう言って生物の先生が薦めてくれた本との“再会”が、私のターニングポイントとなりました。

それは、村上陽一郎氏(豊田工業大学次世代文明センター長)の『新しい科学論』(講談社)という、著名な「科学哲学」の入門書です。しかしこの時は読み飛ばして、本棚にしまい込んでしまったのです。

大学から大学院に進んだ私は、「粘膜免疫学」に魅了され、研究にただひたすら没頭し、毎日を楽しく過ごしていたので、本のことはすっかり忘れていました。

ところが、修士から博士に進み、いつの頃からか、「科学とはどのような活動なのか」「科学者として心の拠り所は何か」「研究者として生きていく自分の役割は何か」と言った、科学者としての迷いや不安が湧き出し、前へ進めなくなってしまったのです。

そんな時、あの生物の先生の言葉を思い出し、その本を読み返しました。すると、そこには私の求める答えへの道筋があったのです。「科学とは何か?」という問いに対し、深い視点で洞察した、まさに「今の私のための本」でした。

さらに本の中で紹介されていた自然哲学や科学哲学に関する多くの書物を読むことで、自分と同じような悩みを持つ研究者がいたことに安堵し、どんな学者にもそれぞれの価値があることに気付いたのです。

そして私なりの科学哲学を認識できたことで、「これからも科学者として生きていこう!」という決意がみなぎってきました。

皆さんも、仕事やプライベートで迷ったら、昔買った本を読み返してみてはいかがでしょう。以前は気付かなかった視点や考え方に触れることで、問題を解決に導いてくれるかも知れません。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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