
2021.03.03
明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト
ここまで、日本や世界のビジネス構造と、日本の未来社会デザインについて述べてきましたが、それを踏まえた上で、この連載の第1回で表示した人事労務管理の論点について考えてみましょう。
例えば、「AI(人工知能)に人間の仕事が置き換えられる」とはどういうことか。
これは、AIに置き換えることができない戦略立案やプロジェクトをリードする仕事に人が特化するために、定型的な業務をAIやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)に置き換えたり、アウトソースを活用するということです。
つまり、ハイエンドやミドルの人たちの負担を軽くして活動しやすくするために考えなくてはいけない論点ということです。
「AI、ICT技術者の育成が急務だ」というのも、戦略立案力、プロジェクト運営能力をもった技術者であるハイエンド、運用能力の高い技術者であるミドルが不足しているがための論点です。逆に言えば、ローを育成することは論点になっていません。
以下の論点も同じ発想から出ています。生産性を高めることも、創造性や戦略立案力を高めることもハイエンドやミドルに期待されることです。ジョブ型雇用はローに対して行うことで、その部分の人件費負担を減らし、それを、実は、日本型雇用をすべきハイエンドに振り分け、人材の確保を狙うということです。
要は、プラットフォームビジネスを目指さなければ、日本の産業は国際社会でプレゼンスを失う危機感があり、そのためには、日本のプラットフォームビジネスを支え、牽引していく人材の育成と確保、そして、彼らの働く環境を整えていくことが喫緊の課題である、ということです。
確かに、そのための議論は必要でしょう。しかし、一方で、大多数の労働者であるローに対する視点や議論があまりにも希薄です。
実は、この分野でも日本は世界に遅れているのです。すなわち、社会の二極化が進行することに対する危惧と、それを是正するための議論です。
例えば、日本では、SDGsは環境問題に関する議論だと思われがちですが、持続可能な経済成長の観点から、経済の二極化を是正する方向性も打ち出しているのです。
すなわち、プラットフォームビジネスの進行によって二極化が進行し、格差が固定化されていく状況は、世界ではすでに大きな問題とされているのです。
今後、日本がプラットフォームビジネスを中心に経済成長を図っていくのであれば、同時に、人事労務管理の観点から、ローのクラスの人たちをどう働かせ、どのように働きたいのかをくみ取り、どう育成するのか、についての議論を進めることが重要なのです。
次回は、ローの人たちの働き方について解説します。
#1 人事労務管理とは?
#2 日本は他国の下請け産業の国になる?
#3 労働者は三層化する?
#4 日本の労働者の二極化が進行する?
#5 働き方はいろいろあって良い?
#6 新規学卒採用はなくなる?
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。