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原発訴訟の“ウラ側”から見えてくるもの

瀬木 比呂志 瀬木 比呂志 明治大学 専門職大学院 法務研究科 教授

裁判官はコントロールされている

 たとえば大津地裁の下した判断に対して、「わずか三人の裁判官が政治や行政の大きな方針をくつがえしてよいのか」という意見が出ることがあります。しかし、本来、司法による権力のチェックというのは、そういうものです。権力の内部では、厳しく自己を見詰める眼は不足しがちであり、ことに現在の日本では、それがほとんど失われてしまっているのではないかと感じられます。だからこそ、裁判官には、独立し、まさに、法の精神と正義の要請と自己の良心にのみ従う第三者の眼をもって、また、国民、市民の代理人として、冷徹に権力の監視を行う姿勢が求められるのです。原発に関していえば、司法に求められている役割は、ずばり、最後のフエイルセイフ(危険制御)機関であるといえます。もっとも、裁判は裁判官の価値観や考え方によって決まる部分も大きく、また、裁判官も人間であり、それぞれ価値観や考え方が違うのですから、判断も違ってくるということはあるでしょう。しかし、その価値観やものの考え方に大きな影響を及ぼす“工作”があるとしたらどうでしょう。

 一般には知られていませんが、特定の事件類型についての法律問題などを協議する、最高裁判所事務総局主宰の「協議会」というものがありました。協議するテーマは民事局、行政局等の事件局が決め、高裁長官や地家裁所長が、出席する裁判官を決めます。協議会は、各協議問題ごとに、まず、出席した裁判官が意見を述べ、議長が発言者を求め、質問するなどした後に、民事局、行政局等の係官が局の検討結果、見解を述べる形で進行します。協議会のこうした概要を聞くと、裁判官のための一種の勉強会や研究会のように思えるかもしれません。しかし、協議結果を事務総局がまとめた執務資料中の「局見解」(いわば事務総局の意向をまとめたもの)は、全国の裁判官たちに絶大な影響を及ぼしてきました。たとえば、1988年10月の協議会では「原発訴訟については行政庁の専門技術的裁量を尊重し、それに合理性があるか否かという観点から審査をしてゆけば足りる」との局見解が述べられていますが、最近の原発差し止め仮処分却下や取消し決定の判断枠組みも、この局見解に近いといえるでしょう。裁判官には、法の精神と正義の要請と自己の良心にのみ従い、第三者の目をもって判断することが求められますが、その要請に近いのは、前記のいずれの方向の裁判かということを考えてみることが必要かと思います。

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