明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト

TPPの本質を理解し、変革のチャンスとすべき

明治大学 農学部准教授 作山 巧

農業保護の仕組みを変えるきっかけに

作山 巧 安倍首相の説明に疑問を感じる点はまだあります。日本政府は、農業界には「重要5 品目は守った」と言い、消費者には「輸入品の価格低下でメリットがある」と言っています。しかし、農産品の関税を維持することは輸入価格が低下しないことを意味し、消費者の利益とは両立しません。大筋合意の内容をみると、米に関してはアメリカとオーストラリアに対する輸入枠が新設されていますが、その数量は両国合わせて8万トン弱で、国内の年間消費量の約1%程度です。これによって米の価格が大きく低下するわけではありません。つまり、今回の大筋合意では、本質は農業の保護を優先し、消費者のメリットは少ないのが現実です。

 こうした中で、介入主義的な対策の導入が懸念されます。米の輸入枠新設を受けて、備蓄用に買い上げる国産米の数量を増やして、価格低下を防止すると政府は説明しています。しかし、これでは消費者の米離れを加速するだけでなく、安倍政権が推進する農産物の海外輸出にも逆行します。アメリカやヨーロッパでは、農産物の価格は基本的に市場に委ね、農家の所得は直接補助金で補填する制度が主流です。これなら、自由貿易によって農産物の価格が下がれば消費者にはメリットがあり、他方で農家も困窮することはありません。先進国では一定の農業保護は必要で、アメリカもEUもこうした農家への補助金に、毎年10兆円程が支出されています。TPPでも、関税は削減されますが国内補助金への制約はありません。日本にとっても、今後のEUや中国等との自由貿易交渉で追加的な関税撤廃は避けられないことから、TPPを契機に欧米型の制度に移行していくのが望ましいでしょう。

 農業対策のもう一つの懸念は、TPPに便乗して農業土木の公共事業を回復しようとする動きが見られることです。農地の集積は他の手段でも可能であり、公共事業は農家にも負債が残る仕組みであることから、国民の批判を浴びたガット・ウルグアイ・ラウンド対策の愚行は繰り返すべきではありません。

社会・ライフの関連記事

医師の労働時間の改善が、より豊かな医療の実現に繋がる!?

2019.12.11

医師の労働時間の改善が、より豊かな医療の実現に繋がる!?

  • 明治大学 経営学部 専任講師
  • 早川 佐知子
日本独特の発酵食品をつくる麹菌は日本にしかいない!?

2019.12.4

日本独特の発酵食品をつくる麹菌は日本にしかいない!?

  • 明治大学 農学部 教授
  • 中島 春紫
博物館や美術館には、新たな発見や不思議な出会いが満ちている

2019.11.27

博物館や美術館には、新たな発見や不思議な出会いが満ちている

  • 明治大学 文学部 准教授
  • 井上 由佳
増える、ひとり暮らしの高齢者が楽しい生活をおくるには

2019.10.16

増える、ひとり暮らしの高齢者が楽しい生活をおくるには

  • 明治大学 専門職大学院 ガバナンス研究科 教授
  • 岡部 卓
増税による負担増ばかりではなく、受益増についてみんなで考えよう

2019.10.9

増税による負担増ばかりではなく、受益増についてみんなで考えよう

  • 明治大学 政治経済学部 専任講師
  • 倉地 真太郎

Meiji.netとは

Meiji.net英語版

新聞広告連動企画

新着記事

2019.12.11

医師の労働時間の改善が、より豊かな医療の実現に繋がる!?

2019.12.04

日本独特の発酵食品をつくる麹菌は日本にしかいない!?

2019.11.27

博物館や美術館には、新たな発見や不思議な出会いが満ちている

2019.11.20

ゲノム編集で不妊症の原因を解き明かす

2019.11.13

音声合成技術によって「人間を超える声」が生まれる!?

人気記事ランキング

1

2019.12.11

医師の労働時間の改善が、より豊かな医療の実現に繋がる!?

2

2017.10.04

精神鑑定は犯人救済のために行うのではない

3

2019.12.04

日本独特の発酵食品をつくる麹菌は日本にしかいない!?

4

2018.05.23

衰える結婚、止まらぬ無子化 ――このままでは日本の未来が失われる

5

2014.03.01

消費税が抱える問題 ―求められる公正な仕組みの実現―

Meiji.net注目キーワード

【注目!】連載コラム