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2015.11.20

TPPの本質を理解し、変革のチャンスとすべき

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農業保護の仕組みを変えるきっかけに

作山 巧 安倍首相の説明に疑問を感じる点はまだあります。日本政府は、農業界には「重要5 品目は守った」と言い、消費者には「輸入品の価格低下でメリットがある」と言っています。しかし、農産品の関税を維持することは輸入価格が低下しないことを意味し、消費者の利益とは両立しません。大筋合意の内容をみると、米に関してはアメリカとオーストラリアに対する輸入枠が新設されていますが、その数量は両国合わせて8万トン弱で、国内の年間消費量の約1%程度です。これによって米の価格が大きく低下するわけではありません。つまり、今回の大筋合意では、本質は農業の保護を優先し、消費者のメリットは少ないのが現実です。

 こうした中で、介入主義的な対策の導入が懸念されます。米の輸入枠新設を受けて、備蓄用に買い上げる国産米の数量を増やして、価格低下を防止すると政府は説明しています。しかし、これでは消費者の米離れを加速するだけでなく、安倍政権が推進する農産物の海外輸出にも逆行します。アメリカやヨーロッパでは、農産物の価格は基本的に市場に委ね、農家の所得は直接補助金で補填する制度が主流です。これなら、自由貿易によって農産物の価格が下がれば消費者にはメリットがあり、他方で農家も困窮することはありません。先進国では一定の農業保護は必要で、アメリカもEUもこうした農家への補助金に、毎年10兆円程が支出されています。TPPでも、関税は削減されますが国内補助金への制約はありません。日本にとっても、今後のEUや中国等との自由貿易交渉で追加的な関税撤廃は避けられないことから、TPPを契機に欧米型の制度に移行していくのが望ましいでしょう。

 農業対策のもう一つの懸念は、TPPに便乗して農業土木の公共事業を回復しようとする動きが見られることです。農地の集積は他の手段でも可能であり、公共事業は農家にも負債が残る仕組みであることから、国民の批判を浴びたガット・ウルグアイ・ラウンド対策の愚行は繰り返すべきではありません。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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