日本が途上国から学ぶべき“地域社会の連携”
災害対策において、地域社会やコミュニティが果たす役割には非常に大きいものがあります。津波や洪水などの災害が発生した際、最も早く動き出すのは行政ではなく、地域の人々です。
消防団や水防団といったボランティア組織、さらには近隣に暮らす住民が中心となり、倒壊した家屋からの救助、避難の呼びかけ、避難所運営の手伝いなど、多様な支援が行われます。地域のつながりが強いほど災害時の対応が迅速になり、その後の復旧・復興もスムーズに進むと言われるゆえんです。
私自身もエンジニア出身ですが、日本の防災は工学系の専門家が主導するという風潮が根強くあります。確かに、地震や噴火のメカニズム、堤防やダムの構造を理解するには理工学的な知識が不可欠です。しかし、防災対策を社会の中で実際に機能させるには、自然科学だけでは不十分です。住民に適切な情報を伝えるコミュニケーション、災害時に弱者を守るための社会制度、避難所で快適に過ごすための環境整備など、理工学以外の領域の知識と視点が欠かせません。
たとえば避難所の生活環境を考える場合、必要になるのは工学的知識ではなく人文社会学的な視点です。ジェンダーやマイノリティに関する配慮、プライバシー確保、子どもや高齢者のストレス軽減など、幅広い視点から問題を把握し、改善策を提示していく必要があります。そう考えると、防災における「理系偏重」の姿勢は見直す余地があると感じています。多様な分野の知識や実践を組み合わせることで、防災の質はより高まるはずです。
また、政府により注力してほしい点として、避難所運営の改善があります。阪神淡路大震災の頃から指摘されていますが、体育館の冷たい、硬い床で雑魚寝を強いられる状況は今なお多く見られます。能登半島地震でも、段ボールベッドの導入に二週間を要し、プライバシー保護のためのパーテーションも不足していました。災害大国である日本として、ここは優先度を上げるべき分野であると考えています。
日本の防災知見を世界に共有することには大きな意義があります。ただし、日本がすべての面で先進的かというと、必ずしもそうではありません。
地域社会の連携という点では、むしろ途上国の方が進んでいる例もあります。たとえばベトナムでは洪水が迫った際、人びとが自然と声を掛け合い、高齢者を優先して避難させる光景が見られます。地域のつながりが希薄になりつつある日本で、同じことが即座にできるかと考えると、決して容易ではありません。
地域コミュニティは災害対応に活かしうる潜在力を持っており、その力をどう引き出すのかは今後の重要な研究テーマです。どのような施設が地域の防災力を高めるのか、どんなイベントが住民の連携を強めるのか、さらに精緻な検討が求められます。
私が目指しているのは、日本の防災ノウハウを国際社会に伝えると同時に、日本自身も途上国から学ぶべき点を積極的に取り入れていくという姿勢です。災害は国境を越えて影響を及ぼす問題であり、互いの強みを共有しながら、より強靭な社会を築いていくことが求められています。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。
