学びを加速させるアドバイス正解がわからない問題を考える。
教授陣によるリレーコラム/学びを加速させるアドバイス【21】
私は修士課程の頃から、インフラ政策に関する研究を続けてきましたが、そのなかで最も強く感じたのは、「政策に唯一の正解はない」ということでした。国が進める政策が必ずしも最良とは限りません。受験勉強のような正解があらかじめ用意されている問題とは、根本的に性質が異なっていたのです。
その後、私は国土交通省、世界銀行、JICA(国際協力機構)といった現場で実務に携わり、防災体制の構築、気候変動への適応策、水資源管理、地域活性化など、多様な課題に向き合ってきました。
いずれの分野でも、教科書のような「模範解答」は存在しません。自分が選んだ方法が本当に最適だったのか、あるいはもっと良い手段があったのかを後から検証することは、ほとんど不可能です。その不確実性のなかで判断を下すのが、実務の世界の現実です。
だからこそ学生には、「社会で取り組む問題の多くは正解がわからない」という前提を早い段階で理解してほしいと考えています。
私の授業では、あえて「答えのない問題」を提示し、学生自身に考えてもらう機会を多く設けています。私が正解を示すことはほとんどありません。そもそも私自身にも「唯一の答え」が見えていないからです。むしろ重要なのは、多様な立場に立って物事を捉える姿勢にあります。
たとえば授業では「なぜ公害病は起きたのか」をテーマにディベートを行います。学生には企業側、被害者側、行政側など、異なる立場を割り当て、それぞれの視点から議論してもらいます。
水俣病では、最初の患者の報告から政府が公害病として正式に認めるまで10年以上かかりました。なぜ判断が遅れたのか。歴史的事実をたどりながら議論を深めると、行政的判断の難しさ、企業と地域の関係性、科学的知見の不確実性など、複雑な因子が絡み合っていることが浮かび上がってきます。そこにこそ「正解なき問題」を理解するための学びがあります。
この構造は、ビジネスパーソンが直面する課題とも通じています。日々の仕事には、正しいかどうか分からない決断が多くあります。そのような状況では、まず問題の周辺にあるエビデンスを集めてみることです。先行事例を調べるのも有効でしょう。
ただし、周囲の反応を気にし過ぎると、かえって意思決定が鈍り、挑戦が遠のく危険もあります。とくに新しいことに挑むときには、自分の中にある小さな信念を大切にしてほしいと思います。
もちろん組織の中では、思い通りに進められないことも多々あります。それでも、自分の信念を手放さず、日々の仕事の中で磨き続けていれば、必ずどこかでチャンスは訪れます。
そのときに備えて、やりたいことのアイデアをメモとして残しておくことをおすすめします。いつか「その時」が来たら、堂々と動き出せるように。答えのない問題に向き合う力は、その積み重ねのなかで育っていくのだと思います。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。
