物流拠点間をリレーしながら届ける「フィジカルインターネット」
「2024年問題」を前に、政府は荷主や消費者の行動変容を促し、物流の効率化を促進するための政策を打ち出してきました。しかし本質的には、物流基盤は産業や社会のインフラとして維持できるように効率的にシェアすべきものです。そこに向けた新たな仕組みが、「フィジカルインターネット」と呼ばれるものです。
フィジカルインターネットとは、2010年頃に欧米の識者らが提唱した概念で、情報インターネットのパケット通信にヒントを得て、同じような仕組みを物流にも適用しようとする考え方です。標準化された荷姿の荷物を混載し、物流拠点間をリレーしながら届けることで、効率的な物流ネットワークを作ろうとしています。これにより、災害時の迅速なルート変更やCO2削減といった効果も期待されます。
欧米では、超大企業が市場を寡占した状態で事業を営んでいることもあり、民間が主導で協同組織を組成し、ルールづくりに取り組んでいます。一方、日本の場合は、プレイヤーが多いだけでなく、売り手と買い手の間に卸売業が介在していて取引関係が非常に複雑な場合も少なくないため、民間だけではルールづくりが容易ではありません。
そこで日本では、世界で初めて国が主体となって、物流・サプライチェーンの効率化に資する業界全体のさまざまな標準化をめざすという流れになっています。国土交通省や経済産業省など省庁が連携をして行政が主導し、2023年3月に「2040年までのフィジカルインターネット実現に向けたロードマップ」を打ち出しました。私も実現委員会のメンバーとして参画しました。
そもそも競合企業が存在する業界内で協力する必要があるフィジカルインターネットの実現は、簡単ではありません。そこで経済産業省は、ロードマップに加えて、具体的な行動を起こしてもらうために、各業界のアクションプランを策定することとしました。私自身、加工食品・日用雑貨品業界の2030年までのアクションプランを作成委員会の座長として取りまとめを行いました。
プランの策定を始めると、競合企業との情報共有に抵抗があることや、荷物を載せるパレットの共通化をする際はどのサイズを標準とするか、物流資材・設備を誰が投資して、その運用ルールを誰が策定するのかという課題に直面しました。事業所コードや商品のマスターを共通化し、物流商流のデータ基盤の構築と活用ルール、パレットやコンテナなどの物流資材の標準化、物流効率化に影響する商取引慣行の見直し等をすることになりました。現在は、このようなアクションプランの策定作業を、他の業界でも展開しようとしている状況です。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。