COVID-19の影響により、移動の主体が「人」から「プログラム」へと変わった
公共空間に注目されるようになったのは、社会の縮小化や技術の発展により、余剰空間が増えてきたことにも起因しています。人口が減るとともに「箱」を減らしていく方向になり、自然と建物と建物の間の空間が増え、公共空間の在りようにも目が向けられるようになりました。また今後、自動運転が普及すれば、都市の中で、路上駐車帯など今まで車のための空間として割り当てられた空間に不要な部分が出てきます。そこで生まれた余剰空間をどう使うか。現在は人中心の街路と言われているように、いかに車のための空間を人のための空間へと転換させていくかが大きなテーマとなっています。
COVID-19の影響により、移動の主体が変わったことも大きいです。従来は、建物という箱があり、移動する主体は人でした。朝、自宅からオフィスへ行き、終業後はオフィスから飲食店などを経由して自宅に帰ってくる。オフィスも飲食店も移動の目的地として存在していました。ところがCOVID-19によって人の移動が制限されたことで、土地利用、つまりプログラムの方が移動し始めたのです。
たとえばレストランというプログラムが、自転車で運ぶ宅配バッグに一部置き換わり、都市を動き始めました。会議や授業といったプログラムは、オンライン会議システムの普及により自宅の中に転がり込んできました。移動の主体が変わったことによって、都市空間や建築の在りようが、これまでにないぐらいの大きな変容を迫られています。このCOVID-19による急速な転換は、日本だけでなく世界的な動きだと言えるでしょう。
プログラムの移動が増えることによって、公共空間が建物と同じような可能性を持ち始めています。一例ですが、オレゴン州のポートランドでは、フードトラックが集合し、屋外フードコート的なものをつくっています。今まで建物の中にあった飲食店街が、移動可能になることで外部空間に現れたのです。移動の急速な転換によって、建物と都市空間の境界が失われつつあるのが今の都市の在りようだと言えます。
たくさんのフードトラックが集まる、オレゴン州ポートランド
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