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2024.05.02

公共空間の変容を迫られている今は、都市を豊かにしていく大きなチャンス

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アクティビティのきっかけになる仕掛けを、都市の中にどう入れ込むか

 都市空間を変容させている先進的な事例の一つが、スペインのバルセロナです。格子状の街区で成立している都市ですが、3×3の9街区を大きな単位と見て、その外側の幹線道路を車のための場所にして、内側にある井桁状の街路は歩行者のための区域に転換していく、「スーパーブロック」という考え方で再整備を進めています。かつて自動車道路だったところが歩行者専用になり、まさに道路の広場化が起きているのです。もともとバルセロナは、街路がバラエティに富み、公共空間の質も非常に高いレベルにあった都市ですが、スーパーブロックの整備による街路の公共空間化は圧巻です。

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バルセロナのスーパーブロック内にある歩行者空間

 また、はしご酒を前提としたスペインのバルは、コロナ禍前から人を移動させるシステムでしたが、なかでもサン・セバスチャンのバルは、お客さんを呼び込むため、通りに対して非常に広く開かれています。人々のアクティビティが都市空間ににじみ出しているという仕組みを、都市や土地利用の構造がつくっているわけです。バルセロナとサン・セバスチャンは、まったく違う手法ながら、都市の在りように対する非常に面白いアプローチをとっています。

 単なる機能的な通行のための空間から、滞留のための空間にオーバーラップさせていくのは、これからの都市デザインにおいて非常に重要です。公共空間は不特定多数の人が利用する場所なので、過度に意図的なコントロールは、うまくいきづらい傾向にあります。空間の在りようをつくりだすのは、あくまでも人々です。不特定多数の人たちにアクティビティのきっかけを与えるような仕掛けを、都市の中にどう入れ込んでいけるか。その点において、アクティビティが空間を定義してきた日本の経験は、これからの都市空間の在り方を考えるうえで重要なヒントを与えてくれそうです。

 私の研究室では、「ボラサイト」と名づけた居場所づくりの試みを行ったことがあります。渋谷の宮益坂を歩行者のための空間に変えようというイベント時に協力を依頼され、郵便局前のボラード(車止め)に天板をつけ、道路空間に小さなカウンターをつくったのです。すると郵便局の人たちが終業後、コンビニで買ってきたビールをそこで飲み始め、人の輪ができていきました。さらにはフードデリバリーのスタッフが配達前に荷物を置いたり、郵便局に来た人が書類の整理をしたりと、建物のなかのアクティビティが公共空間にあふれ出てくる小さなきっかけとなったのです。

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佐々木研究室が企画し、渋谷の宮益坂に設置したボラサイト

 変わらなければいけない時代に来たことは、ある意味、チャンスだと思います。人口減少に伴う社会の縮小は危機ではありますが、今まで無視されていたことに目を向けさせてくれる状況になったとも言えます。災害に対する安全性も含めて、建物と建物の間の空間に目を向けなければならなくなったのは、都市を豊かにしていく大きなチャンスと捉えるべきだと、この分野に身を置く人間としては考えています。


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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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