Meiji.net

マイノリティの労働環境改善に向けた法整備を
  • Share

労働者が使用者のもとで働くことによって起こる問題は、かつては国内で完結するものでした。1947年に施行された労働基準法も、日本における日本人を前提で定められていて、外国人が日本で働いたらどうなるのか、日本人が外国で働いたらどうなるのかといったことは度外視されていました。国際化が進み、改善が急がれる日本の労働問題について考えます。

外国人労働者や日本人の海外勤務を想定していない日本の労働法

野川 忍 先進国で唯一、日本にだけ存在しない法律に、移民法があります。どこの国も一定のシステムのもとで移民を受け入れているのに、日本にはそれがない。1980年代後半のバブル期、多くの外国人が働きに来ましたが、労働目的での移住はごく限定的にしか認めないという表向きの政策を、日本はずっと続けてきました。そのため就労ビザではなく観光ビザや留学ビザなど、さまざまなルートを使って、一時は年間100万人単位の外国人労働者が入国し定住しました。もちろん長く働いていれば、家族だって呼びたくなるでしょう。その家族も裏口から来るしかなく、本来は認められていない存在だという差別が助長されていったのです。

 国内の治安を守るためには少しでも混乱があると困るから、受け入れたくはないけれど、その労働力に頼らざるを得ない。まずは技能実習という形で来てくださいといった歪んだ対応が、差別構造をさらに膨らませました。結果、明るみに出たのがベトナム人技能実習生などの事件です。虐待をする、労働をさせるだけさせて最低賃金すら支払わないといった非道な実態が報道され、ようやく転換が起こりました。外国人技能実習制度が始まってから、すでに30年近くも経ってのことです。

 実質的に今も移民は増え続けています。外国人労働者に対する環境整備は喫緊に解決しなければならない課題です。同様に、日本人が海外で働くケースについても、さまざまな問題が生じています。例えば、時間外労働における割増し賃金に関しては、1日8時間を超えた分は1.25倍以上の割増率で支払わなければ罪になります。しかし海外出張の期間にこれが起こり訴えたとしても、日本の主権領土ではないため、労働基準監督官は動けません。

 他にも、海外で働いていた人が過労死した際、労災保険が適用されるどうかで裁判が起こった事例もあります。また、海外の工場で結成された労働組合による団体交渉が、日本の本社から拒否されたというケースもありました。日本の労働組合法では、正当な理由がない限り団交に応じなければならないと書かれていますが、海外での組織を認めるかは言及されていません。経済関係であれば最初から国際取引を念頭にルールがつくられているものの、労働関係の法律は、そういった事態が起こることを想定していなかったわけです。つまり労働関係の法律が徐々に機能しなくなってきているのです。

英語版はこちら

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

  • Share

あわせて読みたい