意識面まで国際標準にできなかったツケが、労働問題にも直結
日本の労働環境を改善するうえで、労働者代表機関の設置を義務づける、労働者代表制の制定は大きな意味があります。とはいえ、日本の労働組合は企業単位でつくられているのだから、企業内に設けられる労働者代表機関と同じではないかという指摘もあります。しかし、はたしてそうでしょうか。
労働組合は、企業としてはない方がいいですから、労働組合の意義や役割を積極的に社員に周知する企業は稀でしょう。それに輪をかけて、現状存在している労働組合は、高い組合費だけ取って、ためになることを何もやっていないという批判も少なくありません。現実問題として、「任意でつくれる」だけでは機能していないのです。制度として義務づけることができれば、企業も啓発をやらざる得なくなりますし、不十分な対応をする企業に対して、厚労省や労働局が指導に入ることも可能になります。
実は日本でも労働者代表制について、何度も提案としては上がってきていました。学者らの意見を取り入れた草案も、さまざまな機関から提示されてきたのです。制定するにあたっては、公益代表委員、労働者代表委員、使用者代表委員からなる労働政策審議会を通さなければいけないのですが、その三者の意見が結局これまで一致しませんでした。しかし日本の賃金は現在、先進7カ国のうち最低で、OECD 38カ国のなかでも平均以下。そんな状況ですから、経済を底上げするためにもつくらざるを得ないのではというのが共通認識になりつつあり、近年では制定が現実味を帯び始めています。
日本の労働市場の国際化をマイルドに進めていくためにも、労働者が連帯して自分たちの利益を守っていく労働者代表機関は重要な役割を果たすはずです。例えば、異国から来た人たちを受け入れ、円滑なコミュニケーションを図って業務を進めようにも、個人で対応するとなるとかなりのストレスがかかってしまいます。例えば勤務時間中、イスラム教徒の従業員からメッカに向かって礼拝したいと言われても、独断で対処するのは難しい。労働者を代表する機関が常設され、正しく機能すれば、外国人労働者らとの関係もよりスムーズに築けるでしょうし、彼らや海外労働の問題を、労働者と使用者とが対等な立場で改善にあたれるようになるでしょう。
労働者の人権を保護する一般法も、いずれ整備する方向にならざるを得ません。一方で、労働者代表制を設けることが、それぞれの労働者が抱える苦悩について使用者と相談し、解消していくことにもつながるはずです。近年、世界的に重視されるようになったLGBTQの人たちが働きやすい環境をつくるうえでも役に立つはずです。日本が経済的に成功し、先進国だと言われながらも、意識面を国際標準にアップデートしていくことを怠ってきたツケが、今、顕在化しています。凝り固まった意識を刷新し、日本の労働環境を国際標準に近づけるためにも、まずは我々の思い込んでいる当たり前から離れ、現状や課題を知ることが重要だと考えます。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。