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2022.09.28

ことばによるバイアスに気がつく方法とは

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ことばを深く考えることは日々の豊かさに繋がっていく

 ことばによるバイアスは、発信者が意図して行う場合もあれば、無意識に起こる場合もあります。そこで注意したいのは、その文節化の前提です。

 先に例で挙げたように、「背の高さ」と聞くときと、「背の低さ」と聞くときでは、一方は、バスケットボール選手なのだから背が高いという前提があり、一方は、バスケットボール選手なのに背が低いという前提があるのです。それに引っ張られることによってバイアスが強くかかることになります。

 一般的に、その物事の特徴を積極的に示すことばの方が、前提の意味が強くなり、人は引っ張られやすくなります。それを、言語学では有標性と言います。

 例えば、「背の高さ」と言ったときは、ただ身長を指す意味でも用いられます。だから、これは無標性が高くなります。一方、「背の低さ」と言うと、背が低いという特徴を積極的に指しています。これは、有標性が高いのです。

 日常で、ネガティブな特徴を積極的に切り取ることばを用いることはあまりないと思います。それが、社会における二ュートラルなコミュニケーションの仕方と言えます。

 が、そうではない場合は、そこに、なんらかの意図があると言えます。つまり、ニュートラルではないことばの使い方には、人にバイアスをかけようとする意図がある場合も多いのです。

 近年、問題になっているネット上での誹謗中傷や、ヘイトスピーチなどが典型です。ヘイトスピーチが前提とする有標性は、人に無意識の偏見をもたらす力が強いのです。

 その意味では、そのことばがなにを前提に話されているのかを意識することは、とても重要なことです。

 ことばは、私たちにとって空気のような存在です。あって当たり前だし、なくては困ります。

 でも、それをあらためて見直し、深く考えてみると、自分にどんなバイアスがかかっているのか、気がつくこともありますし、自分のことばが豊かになれば、それは、世界の切り取り方が増えるということで、多角的な視野が身についていくことにも繋がります。

 最近では、リアプレイザルと言い、自分をどう捉え直すかという取り組みが注目されています。

 例えば、プレゼンを前に不安で緊張し、身体がブルブル震えているときも、それは、自分が興奮してワクワクしているからだ、と言い直すだけで、心が落ち着き、その状況を楽しみ、力を発揮できる可能性が高まります。

 「ものは言いよう」ということばがありますが、それは、他者を言い負かすことだけでなく、自分をポジティブに文節化していくことで、自分の置かれた状況や日々を充実したものに変えていく捉え直しの方法でもあります。

 そういった意味でも、皆さんも、あらためて、ことばを見直し、深く考えてみてください。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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