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2023.05.31

地方分権とポストコロナの時代の自治体・地域

地方分権とポストコロナの時代の自治体・地域
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日本では1990年代後半から地方分権が推進されてきました。一方で、2020年から始まったコロナ・ウイルスによるパンデミック対策として、集権化の動きが強まり、政策に齟齬が生じ、国と自治体が対立する状況も生じました。私たちは、国と自治体の関係をどう考えれば良いのでしょう。

中央集権の何が問題か

牛山 久仁彦 歴史を見ると、日本は、明治維新以降、近代国家をつくるために中央集権化を進めました。それは、江戸時代のような幕藩体制では、先進国である欧米各国に追いつけないという思いがあったからだと思います。

 こうした中央集権体制が変化したのは戦後です。日本国憲法の制定によって民主主義体制の下で法制度が大きく変わりました。地方自治に関する法整備もなされ、自治体は国と対等の「地方政府」という位置づけがなされます。

 中央集権的な体制は残り続けますが、一方で1960年代から70年代の高度経済成長期に、地方でも公害問題や様々な都市問題が起こります。それに対して、弱者の立場にあった地域住民を、自治体は守り、支援していく取り組みがなされました。まちづくりや環境等の分野が代表的なところです。

 国策であっても、住民が犠牲を強いられることがあってはならないという視点から自治体が活動し、その役割を担うようになったわけです。しかし、その活動がスムーズに行えたわけではありません。

 ひとつには、明治維新以降構築されてきた中央集権体制の考え方が前提とされ、中央政府にも自治体にも共有されていたことがあったのかもしれません。つまり、法令上の整備はできても、「自治体は国の指示に従わなければならない」という意識はなかなか変わらなかったのです。

 もちろん、国が国民に果たす役割は大きいものがあります。例えば、国民全体の生活レベルを一律に保障する社会保障やインフラ整備、主権の確立などは、自治体行政のみによってできるものではありません。

 しかし、その行政分野すべてについて、維持、管理していくことまで国が担っていては、国の行政機能は、それこそパンクしてしまいます。そうした負担や無理が現実的に顕在化してきた80年代以降、それらの問題を解決していく道筋として、地方自治を重視する考え方が重要性を増してきます。

 つまり、国と地方の役割分担を明確にして、集権的な体制の下で集中してきた国の権限を自治体に移譲し、機能的かつ、効率的な行財政体制を構築していく必要があるのです。そして、1999年に地方分権を推進する法案が制定されました。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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