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熊本県産アサリ、産地偽装問題の一番の被害者は熊本県!?

高倉 成男 高倉 成男 明治大学 名誉教授(元専門職大学院 法務研究科教授)

産地偽装はブランド産品の育成を妨げる

 いま、日本の農業や水産業は、若い後継者がいないという課題に直面しています。それは、日本の農業や水産業の先が見えず、将来が不安だからです。

 そこで、様々な対策が講じられていますが、根本的には、農業や水産業が面白い仕事で、収入も良く、将来性があることを示していくことが重要だと思います。それを実現する試みのひとつが、地域ブランド産品の育成です。

 いま、日本には、地域ブランドを保護する方法として、「地域団体商標」と「地理的表示」があります。

 地域団体商標とは商標権を認めることです。例えば、車のメーカーは自社の車の名称を商標登録します。すると、他のメーカーは、その名称を使うことはできなくなるわけです。

 しかし、こうした商標に地名を用いることはできませんでした。地名は公共財であり、私人の商標権とはならないという考え方です。

 ところが、実際には、農産物をオリジナルの名称で呼ぶことはあまりなく、多くが産地の地名で認識されます。夕張メロンとか、下仁田ネギ。水産物も、大間のマグロ、利尻コンブなどが有名です。

 そこで、一生産者ではなく、その地域の生産者組合などが地名を商標権として取ることを可能にしたのです。これまでに約800、水産物に限っても50以上の地名が地域団体商標として登録されています。

 一方、地理的表示は、その地域の産品というだけでなく、生産方法や、品質、特性などに一定の基準が設けられており、その基準に達しなければ、地理的表示の証しであるGIマークを表示することができなくなります。

 例えば、同じ夕張のメロンでも、基準の糖度に達しないメロンは、GIマークを表示した夕張メロンとはならないのです。

 すなわち、地理的表示を認証する農林水産大臣によって、その産品の品質が保証されることになるのです。これなら、消費者は安心し、信頼して、GIマークのついた産品を買うことができます。

 こうしたプレミア価値のついたブランド産品は、他の地域の産品や、一般的な外国産よりも高い価格で売ることができます。それでも消費者に買ってもらえるからです。

 すると、地域の活性化や経済に貢献するブランド産品を育てる仕事にやり甲斐を覚えたり、それによって収入が良くなり、将来性も感じられるようになってくれば、自然と、農業や水産業に入ってくる若い世代も増えていくと思います。

 さらに、地域団体商標を取ったり、地理的表示を受けることは、産地偽装を防ぐ手立てにもなります。

 すなわち、産地を偽装した産品を商標権の侵害で訴えることができますし、GIマークを勝手につければ、国がそれを取り締まってくれるのです。

 逆に言えば、今回の熊本県アサリの産地偽装事件は、ブランド産品にも育つように、頑張って地元で生産を続けている人たちの足を引っ張ることになるわけです。

 その結果、消費者が熊本県産アサリに不信感を抱くようになれば、ブランド産品を育てるどころか、ただでさえ激減している熊本県産アサリの生産をゼロにもしかねません。

 そんなことが続けば、国内のアサリの生産はなくなってしまうかもしれないのです。それは、消費者にとっても大きな被害となるわけです。

 地域ブランド産品は、生産者だけが育てるのではなく、消費者もその力になっているのです。

 産地偽装などの事件が起きたときには、消費者が、それを許さないという声を上げることが大切です。

 そして、国内の農産物や水産物の生産現場が、いま、どういう状況にあるのかということにも関心を持ってみてください。すると、国産品が外国産よりも高いことに理解が及ぶと思います。

 そうしたことが、作物の国内の生産を維持し、国内の地域ブランドを育てていくことにも繋がるのです。

 もちろん、消費者としては、価格は高いより安い方が良いと思うかもしれません。

 でも、例えば、今日は特別な日というときに、いつもより高いブランド産品を味わうことは、生活に潤いや豊かさをもたらしてくれるのではないでしょうか。

 ブランド産品には、品質にも増して、物語やロマンがあります。それが他にはない価値なのです。日本の産品にはその可能性が溢れていると思います。

 それは、消費者の生活に潤いをもたらすとともに、海外にも販路を広げていくことができる、日本の産品の魅力であり、将来性でもあると思います。

>>英語版はこちら(English)

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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