消費者だけでなく熊本県も被害者
実は、アサリの産地偽装問題はいまに始まったことではなく、過去にも度々、農水省や消費者庁が食品表示法により是正の指導を行っています。すると、業者は素直に偽装を是正しますが、しばらくすると、また、産地偽装を行うのです。これが繰り返されているのです。
実は、国の機関などによる法の適用は、指導、命令、罰則の3段階で行われます。しかし、懲役刑や罰金刑が科される罰則までいくことはほとんどありません。それは、地域経済を支えている水産業を取り潰したくない、という思いがあるからだと思います。
また、中国産の品質が向上し、安全面の問題が少なくなってきたからかもしれません。それに、市場のプロが見ても中国産と国産のアサリは同じで、見分けることができないほどです。
すると、産地偽装をすることによって、消費者にとっては、本当の国産では手に入らないであろう希少なアサリをとりあえず買うことができるわけで、一応、みんなが丸く収まるような状況になるのです。
では、このままで良いのかというと、もちろん、そんなことはありません。消費者にとっても都合が良いのだから、産地を偽っても良いということはありません。
また、今回は、消費者だけでなく、熊本県のアサリ業者も被害者であるかもしれないのです。
今回の問題が報道されたとき、熊本県産と偽っているのは熊本県のアサリ業者だと思った人は多いと思います。
しかし、アサリを輸入しているのは熊本県内の業者に限りません。他県の業者が、古くからアサリの産地として知られる熊本県の名を勝手に騙っているケースが多いようなのです。
だとすれば、なんとか熊本県アサリの伝統を守ろうと頑張っている県内の業者にとっては、たまったものではないでしょう。
さらに、この被害は、熊本県のアサリ業者にとどまらず、最終的には消費者一般に及ぶことになるのです。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。