
2023.02.03
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農産物や水産物の産地偽装が後を絶ちません。つい先頃も、熊本県産と偽装されたアサリが大きな問題になりました。そこには、消費者を騙すという問題の他に、国産品が先細っていくという問題もあります。どうすれば産地偽装をなくすことができるのか、考える必要があります。
2022年1月、テレビ局が熊本県産アサリの産地偽装問題を報道したことがきっかけで、農水省が調査に動くなど、大きな問題になりました。
アサリのDNAを調べた結果、熊本県産と表示されたアサリの、実に97%は熊本県産ではないことがわかりました。
水産物は、獲った水域か水揚げ港の都道府県名などを産地として表示する決まりです。輸入物の場合は、原産国を産地と表示します。
ただし、養殖物を複数の場所で畜養した場合は、最も長い期間畜養した場所を産地として表示することになっています。それは、「長いところルール」と呼ばれています。
今回は、中国などから輸入したアサリを短期間だけ熊本県の海に放し、中国よりも長い期間畜養したように書類を偽造する手口が報道されました。
確かにそうした手口もあったようですが、それは全体の2割ほどで、8割は、輸入したアサリをそのまま市場に持って行き、産地を偽装していました。
つまり、手間のかかる「長いところルール」の悪用すらもせず、そのまま産地偽装していたものがほとんどだったのです。
このように、消費者に平気で嘘をつくようなことが、なぜ行われるのか。大きな理由は、正直に中国産と表示すると、消費者に買ってもらえないからです。
そもそも、日本人には国産指向が強くあります。これは、アサリに限ったことではありませんが、しかし、野菜などは、原産国がほぼ正直に表示されています。
それは、外国産野菜が国産に比べて安いことがあります。消費者は、自らの国産指向と外国産の安い価格を天秤にかけて、選択したりしています。
しかし、アサリの場合は、そもそも国産が圧倒的に少ないのです。
農水省の統計によれば、1980年代には16万トンほどあった国産アサリの漁獲量は、現在では4305トンまで落ち込んでいます。実に、ピーク時の3%以下です。つまり、アサリは、完全に輸入に頼らざるをえない状況になっているのです。
ところが、日本の消費者は中国産の食品に不信感、不安感を持っています。中国産の食品から農薬などが検出されたり、毒物が検出されたこともあったからです。また、中国産のアサリから除草剤が検出されたこともありました。
そのため、国産のアサリは圧倒的に少なく、需要を満たすことはまったくできない一方、中国産のアサリと言うと売れないという状況の中で、業者は産地偽装に走ることになってしまっているのです。