
2022.06.28
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街の中の地域やストリートは時代とともに変遷します。それは、私たちの生活をより便利にしたり、より楽しくしてくれたり、街のアイデンティティになることもあります。でも、得るものがある一方で、それによって失われるものがあることに目を向けてみることも、必要かもしれません。
街の顔や姿は、なんらかの意図や、あるいは思わぬ作用によって変わっていきます。
例えば、東京都心の大規模再開発では、高容積率化を目指す高層ビルやタワーマンションなどによって街の風景が一変します。それは、大資本による意図的な変貌です。
一方、家賃の安い裏通りなどに若者たちが小さな店を出すことによって人が集まり、その裏通りがストリート化したり、地域が活性化していくこともあります。若者たちが、最初からそれを意図したわけではないでしょうが、それによって、やはり、街の風景は一変していきます。
大資本によって高層ビルなどが建てられる場合は、底地を広げるために、その界隈はそもそも一新されます。そこに暮らしていた住人たちの痕跡は消し去られてしまうわけです。
その後、新たに建てられたタワーマンションに彼らが住み替えるケースもありますが、その環境に馴染めなかったり、家賃が高いために転居してしまうことも多いようです。
結局、彼らは排除され、新たなアイデンティティの基に開発されたタワーマンションに合った新たな住人たちによって、新たな地域空間が形成されていくことになるのです。
こうした地域の変貌は、ジェントリフィケーションなどと言われます。再開発とともに住人の、いわば階層の上位化が進行する現象です。
例えば、2020年にリニューアルされた渋谷の宮下公園はその典型のひとつです。ここは、大手のデベロッパーによって再開発され、商業施設やホテルが一体となった複合施設としてオープンし、公園は、その屋上にリニューアルされました。
もともとの宮下公園も、1階が駐車場の上の2階部分にありましたが、どこの街にでもあるような一般的な公園で、誰でも出入りできる公共空間でした。
しかし、新たな宮下公園は、芝生にお洒落なベンチが置かれ、最新のスポーツ施設も設置されるなど、上品でアクティブなレジャースポットのように変貌しました。
それはそれで時代の雰囲気を反映していると言えますが、一方で、いわば、そうした施設を使いこなせる層、あるいは、そうしたコンセプトに乗ることができる層の人たちが集まる空間になっていっています。
再開発をした側にそこまでの意図があったかどうか分かりませんが、現実として、ある種の排除が進行することになったのです。
その根底には、資本主義の論理があると思います。その空間からいかに資本を回収するか、そのために経済の効率化を優先する考え方です。
すると、商業スペースにあるテナントから屋上の公園まで、効率のよい利用者を、いわばセグメントしたいわけです。もちろん、日本は資本主義社会である以上、それはひとつのあり方であると言えます。
消費活動にともなう活性化によって、それはその空間のアイデンティティともなり、それが、また、新たな利用者を呼び込んでいくことに繋がるわけです。
一方で、裏通りなどを活性化していく若者たちの活動は、地元の商店や住民との連携やコミュニケーションを深めていくようにも見え、大資本のような、排除が生じるやり方とは異なるように見えます。