明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト

企業に囲い込まれる消費者から、選択する消費者へ

宮田 憲一 宮田 憲一 明治大学 経営学部 准教授

新たな企業成長を促すのは私たち消費者

 21世紀に入ってから、アメリカでは、かつては栄華を誇ったモダン企業が衰退し、GAFAMやビッグ・テックと呼ばれるネオ・モダン企業が急成長を遂げました。

 一方、日本では、まだモダン的な企業が大企業として残っていますが、このままでは、さらに成長していくのは難しい状況です。そこで、日本の大企業の中にも、ネオ・モダン的な戦略に向かうところが出始めています。

 しかし、一方で、EUなどでは、ネオ・モダン的な戦略に対して規制をかける動きが強まっています。例えば、デジタル課税や、個人情報保護の強化などです。

 日本もこうした動きに追随していくことが考えられます。そうなると、ネオ・モダン的な戦略は、いまのGAFAMなどがピークになるかもしれません。

 GAFAMが、かつての大企業が行き詰まり始めたときに、従来にはない発想の戦略で一気に成長したように、今後、彼らにはない発想で急成長する企業が現れる可能性もあります。

 例えば、世界中の製品が均質化してきたいまだからこそ、ものづくりに徹して、他にはない独自性のある製品を作ることも、発想のひとつだと思います。

 非常に身近な例として「柿の種」があります。日本の米菓のひとつである柿の種は多くの企業で作られていますが、各社で味が少しずつ違います。でも、その少しの味の違いによって、人気は大きく違います。

 日本で人気の高い柿の種は、実は、世界でも人気があり、いま、インドなどで売り上げを大きく伸ばしています。

 このような、日本でしか作られないもの、日本でしか出せない特徴をもったものづくりも、これからの企業成長のヒントになるのではないかと思っています。

 私たち消費者も、製品やサービスの違いに関心を払っていくことは大切になっていくと思います。

 例えば、スマートフォンのOSでは、セキュリティや個人情報保護の強化を重視し、その実施を公表している企業があります。

 もちろん、人によっては個人情報の保護よりも、利便性を重視する人もいるかもしれません。でも、大切なのは、いまのことだけでなく、様々な観点からも考慮して、自らしっかり選択することです。

 例えば、社会のIT化はこれからもますます進展するでしょう。それは、私たちの生活をより便利に、快適にしてくれるはずです。

 一方で、デジタル社会は情報流失のリスクを常に抱えます。そのリスクを軽視せず、リスク対策をとっておくことも重要なのです。

 いま良いことが、10年後、20年後も良いことであるかはわかりませんし、逆に、いま良いことが10年後にあだとなることもあるかもしれません。

 だからこそ、私たち自身が選択の目を養っていくことは重要です。また、そうした消費者の選択眼や行動によって、企業も提供する製品やサービスを考えていくのです。

 その意味では、未来の企業成長の鍵を握っているのは、私たち消費者なのです。

>>英語版はこちら(English)

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

社会・ライフの関連記事

「道の駅」には、地域活性化の拠点となるポテンシャルがある

2024.3.14

「道の駅」には、地域活性化の拠点となるポテンシャルがある

  • 明治大学 商学部 特任准教授
  • 松尾 隆策
行政法学で見る「AIの現在地」~規制と利活用の両面から

2024.3.7

行政法学で見る「AIの現在地」~規制と利活用の両面から

  • 明治大学 法学部 教授
  • 横田 明美
LGBTQ問題の法整備の遅れと最高裁の視点

2024.2.29

LGBTQ問題の法整備の遅れと最高裁の視点

  • 明治大学 専門職大学院 法務研究科 教授
  • 清野 幾久子
地球のエネルギー問題・環境問題を解決へと導く人工光合成

2024.2.22

地球のエネルギー問題・環境問題を解決へと導く人工光合成

  • 明治大学 理工学部 准教授
  • 岩瀬 顕秀
COVID-19による経済への影響と支援策から見えた、日本の危機

2024.2.15

COVID-19による経済への影響と支援策から見えた、日本の危機

  • 明治大学 専門職大学院 ガバナンス研究科 教授
  • 加藤 竜太

新着記事

2024.03.21

ポストコロナ時代における地方金融機関の「新ビジネス」とは

2024.03.20

就職氷河期で変わった「当たり前の未来」

2024.03.14

「道の駅」には、地域活性化の拠点となるポテンシャルがある

2024.03.13

興味関心を深めて体系化させれば「道の駅」も学問になる

2024.03.07

行政法学で見る「AIの現在地」~規制と利活用の両面から

人気記事ランキング

1

2020.04.01

歴史を紐解くと見えてくる、台湾の親日の複雑な思い

2

2023.12.20

漆の研究でコーヒーを科学する。異色の共同研究から考える、これか…

3

2023.09.12

【徹底討論】大人をしあわせにする、“学び続ける力”と“学び続けられ…

4

2023.12.25

【QuizKnock須貝さんと学ぶ】「愛ある金融」で社会が変わる、もっと…

5

2023.09.27

百聞は“一食”にしかず!藤森慎吾さんが衝撃体験した味覚メディアの…

連載記事