顧客を囲い込む多角化戦略
プラットフォームという言葉自体は古くからありますが、ICTの世界では、共通の目的や資源を共有するために異なる個人や組織が結合する基盤を意味します。
例えば、ものを売りたい人たちや、情報やコンテンツを発信したい人たちと、それを買いたい、共有したいという人たちが集まり、そこで各々の人が、それぞれの目的に従って、様々な人たちと結合する、そういうインターネット上の場がプラットフォームであり、そうした場を提供するのがプラットフォーマーです。
いまでは、多くの人がインターネット上でショッピングや、音楽や映画、映像を楽しんだ経験があると思います。
そのとき、インターネット上にある膨大な数の店舗や、発信されているコンテンツを個別に発見しなければならないとしたら、それは大変な作業になるでしょう。プラットフォームはその出会いをスムーズに実現してくれるわけです。
つまり、現実社会にあるデパートやショッピングモール、映画館などがインターネットによって世界規模に広がっているようなもので、消費者としては非常に便利です。
その利便性が認知され始めると、消費者は、製品の細部にわたる品質の違いよりも、プラットフォームの利便性に目を向け、価値を見出すようになったのです。
しかし、一方で、プラットフォーマーは、自分たちが提供するプラットフォームに独自のルールや仕組みを設定することが可能です。それによって、消費者を増やし、顧客として囲い込むことができるわけです。
すなわち、消費者は、プラットフォームに一度結合すると、その利便性によって構築される生活モデルから、なかなか抜けられなくなる戦略がとられているとも言えるわけです。
事業の多角化は、そのための重要な戦略になっています。
例えば、ネットショッピングのプラットフォームを提供しているプラットフォーマーが、映画や音楽を提供するサービスを始めたり、スマートフォンというハードを提供している企業が、自社のスマートフォン上に独自のプラットフォームを展開し、独自のサービスを提供するようになっています。
すなわち、100年前のモダン企業が、経営資源を統合することでようやく効率的な事業の多角化を進めることができたのに対して、現代のプラットフォーマーは、もちろん、自分たちでものを製造することや、コンテンツを創造することもしますが、それに注力しなくても、それができる企業と結合し、それによって、自分たちのプラットフォームに独自性や価値を付加していくことができるのです。
こうしたサービスの多角化によって、消費者の利便性が上がる一方、ある消費者にとっては、ひとつのサービスは不要でも、他に必要なサービスがあれば、そのプラットフォーマーから離れることができなくなるという状況にもなります。
例えば、SNSのメッセージサービスは使わなくても、画像共有サービスを利用している人は、結局、そのプラットフォーマーの顧客であり続けるのです。つまり、そのプラットフォーマーに囲い込まれているということです。
さらに、いま、ビッグ・テックと呼ばれている巨大IT企業などは、こうした戦略によって顧客を囲い込み、顧客やプラットフォームに結合する企業などから収益を上げるだけでなく、以前はそこまで価値がないものと扱われていた様々な情報を集積することでビッグデータ化し、それを活かした事業展開も行っています。
彼らのこうした成長戦略は、100年前のモダン企業に対して、ネオ・モダン的な成長戦略と言えるものです。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。