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肥満をなくすことと肥満差別をなくすことは大きく意味が違う

碇 陽子 碇 陽子 明治大学 政治経済学部 専任講師

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アメリカには、1960年代から、肥満差別をなくそうという「ファット・アクセプタンス運動」という市民運動があります。一方で、近年、健康リスクの面などから肥満防止が全世界的な社会問題にもなっています。このふたつの動きを私たちはどう捉えれば良いのでしょうか。

肥満は健康問題に直結する!?

碇 陽子 肥満と聞いて良いイメージをもつ人は少ないと思います。実際、WHO(世界保健機関)などは、肥満を流行病と捉え、肥満防止を推進する活動を行っています。

 アメリカでは、1970年代以降、肥満者が急激に増加しています。現在、人口の約40%以上が肥満のカテゴリーに入ると言われますから、肥満は切実な問題と捉えられています。

 一方、日本では、医療で言うところの肥満はそこまで多くはありませんが、特に、若い女性などには太っていると自認する人が多く、痩せたいという思いから摂食障害を患う人もいます。

 なぜ、肥満はこれほど目の敵にされるのか。確かに、太っていることは将来の健康リスクを高めると指摘されています。

 しかし、このBMI値を越えてはいけないとか、この腹囲測定値を越えると病気になると、一律の基準を設けてすべての人に当てはめることがより良い方法なのでしょうか。

 例えば、特にアメリカでは、風邪などの症状で病院に行っても、太っている人なら、とにかく痩せなさいと言われることが多いと言われます。具合が悪いことは肥満に結びつけられるわけです。ここには、肥満に対する偏見があり、医療における肥満嫌悪として問題にもなっています。

 つまり、太っていることは無条件で糾弾され、痩せる以外の選択肢、在り方を議論することさえ遠ざけられているような状況です。

 医療のそうしたアプローチは、一般の市民にとって強迫的な観念のようなものになっているのではないかと思います。

 もちろん、肥満体型の人自身も健康に不安を覚えたり、日常生活に支障が出ることもあり、痩せる努力を多くの人が経験しています。

 しかし、ダイエットを成功させることは簡単なことではありません。また、実は、減量を長期間維持することはできないという研究結果も、医学界では出ているようなのです。

 すると、私たちは、肥満の人を、自己管理ができない人とか、ダイエットができない怠惰な人、食の知識や理解が足りない人などと思いがちですが、決して、そうとは言えないのです。

 つまり、肥満を不健康と決めつけて一律の規範を当てはめることも、肥満の人を自己管理ができない怠惰な人と見なすことも、ある種の偏見ではないかと思います。特に、肥満が単に自己管理の問題ではないことは、いわゆるダイエットをしたことがある人ならばわかると思います。そうした偏見が、肥満の人に対する差別であったり、自分自身に対して痩せなくてはいけないという強迫観念を醸成し、「生きるに値しない身体サイズ」という選別の思想を普及させているとしたら、肥満問題とは、健康問題とは別の側面ももっていることになるわけです。私はそのことを懸念しています。

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