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富岡製糸場、世界遺産登録へ ―その背景にある評価されるべきポイント―

若林 幸男 若林 幸男 明治大学 商学部 教授

戦前の総合商社にはなかった「学歴主義」

若林幸男教授 富岡製糸場に言及する前に、私の研究分野について触れておきたい。私は、三井物産に代表される戦前の総合商社のリクルートや人材統治システム、異動、給与など人事の仕組みを研究対象としている。その過程で興味深い事象が見出されてきた。
例えばリクルート、すなわち人材採用のあり方に関して、現在とは大きな相違があるのだ。現在、総合商社のみならず大手企業における採用の考え方は、偏差値が高い上位校とされる大学から順に採用していくのが基本だろう。高校卒の場合、総合商社では、現在はほとんど採用実績がないと思われる。では戦前の総合商社はどうであったか。驚くべきことに、大学出身者と高校出身者に待遇の差は見受けられないのだ。初任給も年齢差に解消されるし、その後の昇給や昇格においてもほとんど大きな差を見出すことは困難である。賞与に至っては高校出身者の方が高い場合も多く散見される。戦前の総合商社は体感的には現在の数十倍もの事業規模があったことから、多くの人材が必要であり、その人材を評価する基準が非常にフレキシブルであったと考えることができる。
明治初期から戦前の総合商社の社員は、いわば江戸時代から続く“丁稚”として商売を学んでいった。現在とは比較にならないほどに、優れたOJTが継承されていたのだ。社員を評価するにあたっても実力主義が徹底されていた。これらは残存している当時の人事の資料から明らかである。さらに言えば、総合商社のみならず。日本の企業がリクルートにおいて学歴を重視し始めたのは、戦後の混乱期を経て、社会の安定化が図られてからである。かつての総合商社には、現在考えられるような種類の学歴主義ではなく、幅広い人材を活用するノウハウがあったと考えれば、それを現代企業の人事制度に活用する可能性も広がるだろう。

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