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建築シミュレーションで安心と快適を見える化する

樋山 恭助 樋山 恭助 明治大学 理工学部 教授

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2020年のコロナ禍によって、部屋の換気について関心が高まっています。実は、いままで、建物の設計において換気は量的な確保が中心で、その質まで十分に検討されることは希でした。しかし、これを機に、効率的な換気を考えるとともに、快適で安心な室内空間について、あらためて考える動きが高まっています。

気流のシミュレーションから効率的な換気を設計する

樋山 恭助 新型コロナウイルス感染防止策のひとつとして、室内の密閉を避けるために毎時2回以上の換気が推奨されています。ここで換気回数毎時2回とは1時間に室容積の2倍の外気を室内に取り入れることを意味します。

 日本政府は、この方法の一つとして1時間に2回窓を開けることを推奨しています。

 しかし、それが本当に新型コロナウイルス感染防止に効果的なのか、判断が難しいところです。この方法で換気回数毎時2回を担保するには、窓を開けることで部屋の空気が一通り外の空気と入れ替わるという前提を必要とします。ただし、窓を開けた際に本当に室内の空気が十分に入れ替わっているのか、その判断は現実的には難しいでしょう。それは、ウイルスも空気も目に見えないからです。

 例えば、オフィスビルのような建物であれば、換気扇に代表される機械換気設備によって空調を行うのが一般的です。その場合、建物の設計段階から室内の想定人数を決め、1人あたり毎時30立方メートル程度の外気が供給されるように設計されます。

 ところが、その外気が室内の隅々まで行き渡り、室内の空気を効率的に入れ替える、というところまでは、検討が行き届かないことが少なくありません。それは、換気は法規的にはその流量で必要性能が規定されているため、この効率を決める空気の流れ方までは設計の意識が向きにくいためです。この設計のためには、空気の流れの把握、つまり「気流の見える化」を実施する手間があることも、この普及の障害と言えます。

 では、気流の見える化が容易になれば、換気問題はすぐに解決するのかというと、それもまた難しいでしょう。今ある建物においては、気流の見える化を通して換気の詳細な経路を把握し、それを基にその効率を改善しようとしても、できることは限られています。例えば、空気が淀むところにサーキュレーターを設置するくらいで、換気口の位置を変える、窓を新設するというようなことは、現実には難しいでしょう。

 つまり、換気の効率向上のために気流の見える化を実施するのであれば、建物の設計段階で行うことが最も効果的なのです。

 すると、まだ現実には建っていない建物内の空気の流れを見える化することになりますが、それを可能にするのが、数値流体解析といったシミュレーション技術です。

 例えば最近では、スーパーコンピューター富岳を用いた咳による飛沫の飛び方の映像をテレビで目にした人も多いと思います。あれも、数値流体解析技術により、飛沫という目には見えにくいものの挙動を見える化したシミュレーション結果です。あの映像によって、マスクの重要性を認識した人も多いでしょう。

 同じように、目に見えない気流と室内で発生した汚染質の挙動をシミュレーションすることで、効率的な換気の仕組みを設計することができるのです。

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