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脱炭素社会に舵を切った私たちの新しい生活

辻 昌美 辻 昌美 明治大学 専門職大学院 ガバナンス研究科 特任教授

いまを前提にするのではなく新しいスタイルを創出することも必要

 2050年までにカーボンニュートラルを実現するということは、とてもハードルの高い目標です。

 私たちは、つい、化石燃料に代えて、早く再生可能エネルギーに転換すれば良いのに、などと思いがちですが、既存の技術で再生可能エネルギーによる安定した電力供給を行うことは、まだまだ難しいのが現実です。

 だからこそ、実用可能な新しい技術を開発していかなければならないのですが、一方で、私たち自身が、いまと同じような生活を続ける、いまと同じようなエネルギー消費を続けることを前提にするのではなく、いまより少ないエネルギーでの楽しい暮らし方、つまり新しいライフスタイルを選択していくこともひとつの方法なのです。

 例えば、紙を使わずにデジタル媒体を使うこと、自動車ではなく自転車で移動すること、さらにはテレワークを行うことなどです。あるいは、サテライトオフィスやシェアオフィスということで職場が住まいに近づくこともあるでしょう。こうした変化により、企業の働き方改革や、社会や町づくりが推進されるかもしれません。

 そのとき大事なのは、エネルギー消費を抑えるためには、いまより我慢する生活をしなければならない、と考える必要はないということです。自主的な規制でも、国や行政による規制でも、我慢を強いたり、やらされる感がある生活は長続きしないことが多いからです。

 例えば、2020年、多くの人がコロナ禍でステイホームを余儀なくされましたが、それを息苦しいとか孤独と感じて不満をもつのか、オンラインで友人とつながったり、テレワークの合間を縫って自宅の近辺を散歩し、いままで気づかなかったお店を見つけたり、公園でいろんな昆虫や鳥や草木を再発見するような楽しみを見出すのかは、私たち自身の発想次第でもあります。

 慣れ親しんだいままでの生活がベターと思うのではなく、新しいライフスタイルには新しい楽しみがあることを思えば、それは少し選択しやすくなるかもしれません。

 その意味では、このコロナ禍を、私たち自身が新しいなにかを選択するきっかけにすることにもなると思います。

 実際、EUでは、ポスト・コロナとして、コロナ前の社会や生活に戻すのではなく、脱炭素社会を目指すグリーン・リカバリーの取り組みを推進しようとしています。菅総理の所信表明演説では、我が国が世界のグリーン産業をけん引し、経済と環境の好循環をつくり出していくことを表明しています。

 EUがどのような社会になるのか、まだはっきりとはわかりませんが、私たちも、脱炭素社会、循環型社会を目指した生活にシフトしていくことは可能です。新しいニーズが生まれれば、それが企業を動かし、新たな社会をつくりあげていくことに繋がっていくかもしれないのです。

 2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにするというのは、いまのままでは達成が難しい目標です。でも、無理だと思って放棄するのではなく、小さくても様々なこと、あらゆることを積み重ねていくことで、それは達成に近づいていくのだと思います。ピンチはチャンス!

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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