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2020.07.29

お金について学ばないことで失う機会は大きい

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投資とは資産運用であるとともに、社会に関わっていくこと

 ひとつには、アメリカ社会では、お金について学ぶ機会を積極的に増やしたのに対して、日本ではまだ限られていることです。

 そもそも日本では、お金について口にすることは、はしたないという文化のようなものがあります。だから、お金について学ぶ機会が増えないのかもしれません。

 そのために、お金に関する知識が身につかず、投資や資産運用に対して不労所得のような誤ったイメージが払拭されないのです。

 要は、資産運用は目利きです。しかも、国内だけでなく、世界中の情報に目を配らなくてはなりません。的確な資産運用を行うためには、情報生産を1日24時間やっても足りないぐらいです。

 それに対して不労所得のようなイメージをもつのは、お金を預け放しにしていれば、通帳に定期的に利子がつく時代の感覚のままだからです。

 そもそも、金融とは、文字通り、お金を融通することです。余っているお金を足りないところに回すことであり、回してもらったところが成長して利益を出せば、お金を融通してくれたところに利益の一部をリターンするのが基本的な仕組みです。融通する先を見誤れば、お金は返ってきません。でもだからと言って、確実にリターンを得られるところに限定して融通すれば、リターンは低いものになっていきます。

 この仕組みの重要なことは、より多くのリターンを得るためには、より成長する企業を目利きすることであり、それは、次世代を拓くような企業に対して投資という形で応援することに繋がることです。

 実は、そうした活動がなければ、新しい企業は育たず、社会の発展も進まないことになってしまいます。

 つまり、投資とは、自分の資産を増やすことであり、また、新しく成長する企業を応援することで社会に関わっていく、ということでもあるのです。

 こうした考え方を理解し、行動することができる教育が欧米では行われているのに対して、日本はまだ限られているのです。

 単に金融を知識として身に付けるのではなく、自分の行動が自分と社会にどのような影響を与えるのか、自分と社会にはどのような選択肢があるのか、それぞれどのような長所・短所があり、どれが現時点で一番現実的なのか、どのような前提が変わったら行動を変えるべきなのか、というところまで踏み込んで、知識を応用できるようになる必要があるのです。

 私の講義ではこの点について、履修生にも自分事として考えるところから始めてほしいと伝えています。

 もうひとつ、日本で個人投資が増えない理由として、バブル期に一時的に盛んになったものの、バブル崩壊とともに痛い目にあい、それ以来、投資に対してより臆病になったという指摘があります。

 投資は、大儲けすることもあれば、大損することもあるギャンブルのようなもの、という体験談が伝えられている影響かもしれません。

 しかし、バブル崩壊から約30年が経ちました。その間に、先に述べたように、日本社会は大きく変化しているのです。低成長、少子高齢化で、従来の様々な制度が機能しなくなってきています。また日本が足踏みをしている間、成長を続けた諸外国との力関係が変わりつつあるという、国外の事実にも目を向けて欲しいのです。

 つまり手痛いバブル体験を語り継ぐのではなく、むしろ、自分たちの失敗を繰り返さない知恵として、例えば長期分散投資や積み立てなど、初心者が投資を始める際に利用すべき仕組みが整いつつあることを教える方が重要なのです。投資には、次世代を拓くような企業を応援するという側面もあるとすれば、その対象を国内に限る必要もないでしょう。

 米国の個人等、国内外の成長に投資してきた人々は、就労所得と資産所得の両方から、資産を増やしています。そうして物価上昇に追いつかなければ、自分の資産は目減りしていくからです。長らくデフレだった日本国内だけに目を向けていれば、このような心配はなかったのかもしれませんが、こうした国外の動向にも目を向けて欲しいのです。

 人生100年にともなって、私たち一人ひとりの人生設計も変わりました。

 学校を卒業したら企業に勤め、そのまま定年まで働くというライフスタイルだけではなく、在学中に休学して留学したり、勤めながらあらためて大学で学んだり、あるいは、会社を辞めて起業したりと、ライフプランが多様化しています。

 でも、社会制度はそれに追いついていません。自分のライフプランを実現するための資金は自助努力で備える必要があります。それは大変だとか、嫌だと思ったら、自分の望む生き方も難しくなります。

 老後のために、たくさんの退職金や年金を貰えるように、やりたいことを我慢してひとつの会社に勤め続けるという選択では、本末転倒です。

 資産運用を学ぶことは、自分のライフプランを実現する手段を学ぶことにもなるのです。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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