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美術品の価格が分かると、国の文化度が上がる!?

池上 健 池上 健 明治大学 専門職大学院 会計専門職研究科 教授

美術品流通の新たなシステムを構築する

池上 健 しかし、既に様々な制度や取り組みが行われていても、表に出てこない美術品はたくさんあると思われます。

 それは、やはり、美術品の市場価格が明確ではないことが大きな理由だと思います。つまり、寄付をしたり公的機関に売却するにしても、それがどのくらいの価格になるのかわからなければ、どれくらいの優遇を受けられるのかもわからないからです。

 ヨーロッパでは、美術品の公的な評価額を出す仕組みが確立している国があります。例えば、フランスでは、国家資格である競売吏や、公的な鑑定士がいて、彼らの鑑定や評価額は公的なものと認められます。

 イギリスでは、デジタル・文化・メディア・スポーツ省という行政機関が寄付による優遇額の基準を公表しています。

 オランダには、認定動産鑑定人・仲介人・競売人連盟という専門の機関があり、ここが美術品の鑑定評価を行っています。

 このような公的な鑑定機関を、日本にも設立しようという動きは以前からあります。しかし、様々な利害関係があり、なかなか前進しないのが現状です。

 そうした中で、東美鑑定評価機構という機関が2018年3月に立ち上がりました。主要な機能は、利害関係の無いメンバーによる委員会の管理の下で美術品の鑑定と評価を行うことです。もちろん、美術品の売買を行うのは画商などの美術関係者です。

 しかし、その美術品の売買に関与していない第三者がメンバーになるとともに、確認できる美術品売買のアーカイブをすべて揃え、それを基に、公正な鑑定と評価を行い、鑑定書を発行します。

 こうした鑑定書は、既に東京美術倶楽部という法人が発行しており、デパートなどでは、この鑑定書がない美術品は販売しない習わしとなっているようです。この東京美術倶楽部の仕事は、真贋を判定する鑑定が中心ですが、これを引継ぎ、価格の評価までをも行うことを目的とするのが東美鑑定評価機構です。

 こうしたシステムを定着させ、美術品の価格についての指標が明確になっていくことは、先に述べた、美術品に関する税制度を利用しやすくし、美術品の地下取引や流出、死蔵を防ぐことに繋がっていくものと考えています。

 さらに、美術品の価格についての指標があれば、既にオランダで導入されているようなマージン課税の導入も視野に入ってきます。美術品の売買によって得られたマージンに対して課税するのです。美術品については分離してマージン課税を行うことにより、売買の活性化が期待できます。

 美術品の流通が活発になれば、その都度の課税により税収の増加に繋がりますし、それは地下に潜っていた美術品を表の市場に引き出すことにも繋がります。

 美術品の所有者も、美術品に触れる機会が増える私たちも、また、税収も、みんながウィン・ウィンの関係になるシステムを構築していくことは重要です。

 それによって、現状の美術品売買に伴うある種の不透明さをなくし、美術に親しむ人を増やしたり、若い芸術家を育むことにも繋がっていくことが期待できると思います。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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