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2019.12.11

医師の労働時間の改善が、より豊かな医療の実現に繋がる!?

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諸外国には日本にはない医療制度がある

 では、こうした状況を改善する方策はあるのでしょうか。諸外国の制度がヒントになると思います。

 例えば、先進国の多くでは、プライマリ・ケアという考え方が浸透しています。初期診療は地域のプライマリ・ケア医によって行うということです。そこで手当てしきれない治療が必要な場合は、大きな総合病院などに行ってもらいます。

 つまり、地域の医師と、大きな病院の医師で役割分担をしようということです。

 日本でも、初診は、いわゆる町医者で診てもらうという仕組みがつくられましたが、数千円の特別料金を払えば、大病院で初診を受けることができるため、あまり役割分担が進んでいるとは言えないようです。

 タスク・シフトも多くの国で行われている制度です。これは、医療の専門職に就いている人に、医師の業務を移管する制度です。

 例えば、救急救命士が患者を病院に搬送する前に、初期治療を施してくれたら、医師の負担は軽減されますし、なにより、患者にとっては早い処置が受けられることになります。

 もちろん、医療関係者であれば、だれでも治療が可能になるわけではなく、国によって制度は多少異なりますが、医療職に就いて経験を積んだ人が、さらに大学院で医療に関する勉強を行うことで資格が与えられる仕組みになっていることが多いです。

 例えば、アメリカでは、そうした資格を得た看護師はナース・プラクティショナーと呼ばれ、医師と対等なくらいのポジションで、患者にとって必要な治療を自立的に判断することができます。

 そして、ナース・プラクティショナーになると病院勤務だけでなく、独立開業することもできます。実際、地域でプライマリ・ケアを担うナース・プラクティショナーも多くいます。

 また、1960年代に、ベトナム戦争の衛生兵を社会で活かす、フィジシャン・アシスタントという仕組みもできました。

 衛生兵経験者が、やはり、大学院などで学んだ後、医療機関に勤め、忙しい医師に代わって簡単な治療を行ったりするのです。患者の話をていねいに聞くなど、上手にコミュニケーションによって患者の心のケアにもたずさわります。

 他にも、子どもの患者をサポートするチャイルド・ライフ・スペシャリスト(保育プラス医療や心理を学ぶ)、家庭内暴力や児童虐待など、法律が関わる医療分野専門の看護師である法医学看護師(看護師プラス医療や法律を学ぶ)など、様々な専門職があります。

 医療職に就いている人たちにとってはさらなるキャリアアップになり、そうした人たちが医師の業務をサポートすることで、医師は負担が軽くなるとともに、医師でなければできない仕事に専念することができます。

 もちろん、患者にとっても、より豊かな医療が受けられるようになるわけです。

 諸外国で行われている制度が、そのまま日本でも行えるわけではないと思います。日本ならではの事情もありますし、医療保険制度なども異なります。

 でも、医師は多大な負担を抱え、それによって患者も不満や不信を抱えているような現状は、変えていかなくてはなりません。

 諸外国の制度を検討したり、研究する動きもありますが、いまの日本の現状を考えれば、早急な改善が必要です。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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