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自殺未遂者の再度の自殺を防ぐ有効な支援プログラムがある

川島 義高 川島 義高 明治大学 文学部 准教授

精神保健医療従事者による複合的ケース・マネージメントが有効

 先に述べた「自殺総合対策大綱」は2017年に見直しが行われましたが、新大綱にも、「自殺未遂者の再度の自殺を防ぐ」ことが継続して掲げられており、自殺企図後の患者さんに対して、精神科医による診療や精神保健医療従事者によるケアが受けられる救急医療体制の整備を図る必要性が示されています。

 自殺の原因や動機は実に多様で複雑です。仕事の問題であったり、職場の人間関係、家族関係、経済的な問題、健康の問題など、それらはひとつだけではなく、重なることも多々あります。

 そのため、自殺企図後の患者さんに対しては、個々人が抱える困難に合わせた個別性の高い支援が重要になります。

 では、具体的にどのような支援を行なえれば、自殺再企図を防止できるのか。近年の大規模多施設共同研究で明らかになったのは、自殺企図後に救急医療機関に搬送され、救命された患者さんに対して、精神保健医療従事者(ソーシャルワーカー、臨床心理士、看護師など)による「複合的ケース・マネージメント」が有効であるということです。

 危機介入、精神医学的評価、心理教育、そして多職種連携による個別性の高い複合的かつ継続的なケース・マネージメントを行うことにより、自殺の再企図を抑止できることが実証されたのです。

 「複合的ケース・マネージメント」の効果が質の高い研究手法により実証されたことを受け、この支援プログラムは2016年度から診療報酬に組み込まれることになりました。

 そして、救急医療機関に搬送された自殺企図後の患者さんに対してケース・マネージメントを実施することにより、医療機関は診療報酬を算定できるようになりました。

 これによって、病院側は、ケース・マネージメントを実施する精神保健医療従事者として、ソーシャルワーカーや臨床心理士などを雇用・配置することを検討しやすくなったのです。

 また、これらの動向と並行して、ケース・マネージメントを忠実に実施できる精神保健医療従事者を育成するための研修プログラムが開発されました。そして、診療報酬を算定するためには、この研修プログラムの受講が必須要件となりました。

 このようにして、エビデンス(科学的根拠)に基づいた自殺再企図予防を行う基盤が整えられてきました。

 現在、この研修プログラムは、東京、関西、九州などで定期的に開催されています。そして、ケース・マネージメントの普及、さらに支援の質の維持や支援の輪の強化を目指した取り組みが進められています。

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