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増税による負担増ばかりではなく、受益増についてみんなで考えよう

倉地 真太郎 倉地 真太郎 明治大学 政治経済学部 専任講師

デンマークの税と社会保障制度改革

 日本に住む私たちは、北欧の諸国は高福祉が実現していて、そのために高負担でも、納税者みんなが納得している、ある意味、理想的な社会、と思いがちです。

 本当にそうなのだろうか、という素朴な疑問から、私はデンマークの税制や社会保障、地方財政の研究をしています。

 第2次世界大戦後のデンマークは、税負担が拡大していく中で高インフレも進行する状況でした。その結果、低・中所得者の負担はひたすら増えていき、税制への不信が高まっていきました。なおかつ、税の控除制度に不備があり、高所得者はほとんど税金を払っていなかったのです。一方、対人社会サービスの方は窓口の間でたらい回しが頻繁に起こったりと、サービスに不満を持つ人が多い状況でした。

 1973年の世論調査では、「政治家は税金を無駄遣いしている」という質問に90%の人が同意しています。つまり、当時のデンマークでは、ほとんどの納税者が税制に納得などしていなかったのです。

 そうしたとき、1人の弁護士が過激な反税を訴える政党「進歩党」を結成し、1973年の国政選挙で一気に第二政党に躍進する、いわゆる「納税者の反乱」が起きます。

 彼らは、所得税廃止や、ソーシャルワーカーをすべて民間人にする、60歳以上の人の選挙権を剥奪する、防衛費は他国への電話代だけにする、などの過激な政策を掲げますが、それが実現することはなく、結局、この反税政党の勢いは1980年代以降は続きませんでした。

 しかし、この「納税者の反乱」を境に、デンマークの税制と社会保障制度は改革されていくのです。

 例えば、複雑だった所得税制は以前よりもシンプルになり、控除制度も非常に簡素になりました。必ずしも累進性が強いわけではありませんが、高所得者が課税逃れをする余地が少なくなり、公平な課税制度になっていくのです。

 一方で、所得保障の仕組みは非常に精緻化されます。例えば、高齢者には税金による最低保障年金があり、子育て世帯には子ども手当があり、若い人たちなどの住宅困窮者には住宅手当があります。

 これらの制度を複雑に組み合わせて所得保障を行うのです。これにより、立場の違う人たちが、それぞれに最適な保障を受けられるようになります。

 これは、北欧の所得保障制度としてよく指摘されるベーシック・インカム、つまり一律に一定額を支給する考え方とは異なると、私は思っています。近年、フィンランドでベーシック・インカムの実験がありましたが、これらの所得保障制度の組み合わせを完全に代替するものではないと考えています。

 もうひとつ、デンマークで特徴的なのは、課税ベースが非常に大きいことです。課税ベースとは、課税する所得の範囲を意味します。控除が大きいと課税ベースが小さくなります。日本は給付の課税ベースが国際的にみて小さいのですが、デンマークでは年金を受給している人も、さらに生活保護を受けている人も所得税を払っています。実は、そうした人たちにも税金を払えるだけの給付があるように設計されているのです。

 なぜ、そのような面倒くさいことをするのかと思いますが、根底に、みんなで税金を払い、みんなで受益するという税に対する考え方があるのではないかと思います。

 こうした改革の結果、2000年代になると、「税の無駄遣い」に同意する人は半数以下になっていきます。

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