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自治体の予算案に見える、「いま」に応え、「未来」を創る姿勢

小林 清 小林 清 明治大学 専門職大学院 ガバナンス研究科 教授

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2019年度の東京都の予算案は約15兆円で、ニューヨークやロンドンはもとより、スウェーデンの国家予算も超える規模です。その予算案の内容を見ると、都の政策が見えてきますが、さらに、都内の23区や市町村の予算案を見ると、住民の生活により直結した政策や基礎的自治体としての長期的なビジョンが見えてきます。

地域住民の要望に応えることが予算案の基本

小林 清 毎年1月下旬になると、東京都の次年度の予算案が出され、それにともなって都内の特別区や市町村の予算案も決まっていきます。住民の皆さんはそれをチェックすることが大切ですが、それには自治体の財政の仕組みやどのような課題を抱えているかを知っておく必要があります。

 まず、理解しておきたいのは、東京都の場合、都と特別区の間には、ほかの地方自治体にはない「都区財政調整制度」があることです。

 これは、都が徴収する固定資産税、市町村民税(法人分)、特別土地保有税(これらを「調整3税」といいます)の合計額の現在は55%を、各区の財政事情に応じて特別区財政調整交付金として振り分ける制度です。

 特別区の区域では消防や水道、下水道など市町村事務の一部を都が行っていることから、この制度は、都と特別区の間の財源配分を担うという面と、特別区相互間の財源調整を行うという2つの機能をもっています。この制度があるため、各区の財政力が予算額に直接反映されるわけではないことに留意する必要があります。

 次に、予算案の内容です。現在の自治体行政は、福祉や医療、教育、子育て支援、まちづくり、防災、産業振興、スポーツや文化の振興、地域力の強化など多岐にわたります。各区の予算案を見ると、それぞれの区の特性や住民の要望に応える政策が打ち出されているのがわかります。

 例えば、湾岸地域にファミリー向けのいわゆるタワーマンションが数多く建設され、子育て世代の人口が増えている中央区では、保育園や小学校の新設や改築に多くの予算を投入しています。目黒区も待機児童対策を含む「児童福祉費」などに多くの予算を充てているのがわかります。

 それに比べて異色なのが豊島区です。数年前、豊島区は23区で唯一「消滅可能性都市」と指摘されましたが、そのことを逆に発展のバネにするかのごとく、「国際アート・カルチャー都市としま」を標榜し、池袋を中心に大掛かりな文化都市構想を進めています。文化の力で都市力・地域力を高めていこうというわけです。予算案にもそれが反映されています。

 各区がどのような政策を展開していこうとしていくのかを見ていくためには、単年度の予算を見るだけでなく、それぞれの自治体の長期的なビジョンを調べると、より鮮明に特色が見えてくる場合があります。

 長期ビジョンは、人口など基礎的指標の将来動向を踏まえたうえで、将来の望ましい都市像・地域像を示すとともに、それに向けた総合戦略を明らかにした、いわば未来社会の設計図です。

 国の場合は、各省庁ごとの政策展開になるので、分野別、ちょっと批判的に言えば縦割りの計画になりがちですが、それに対して、地域の発展という広い視野から策定される地方自治体の長期ビジョンは、さまざまな行政分野を網羅した総合計画の色彩が強いと言えます。そして、直接選挙で選ばれる首長の公約や、自治体固有の明確な方針が織り込まれる場合が多いのです。

 財政のチェックには、将来の世代に過度なツケを回していないか、という視点も大切です。東京の23区は社会増によりまだ人口が増加していますが、東京も2025年頃をピークに人口減少社会になります。地方債や基金の残高などストック部分にも目を向けなければなりません。

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