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自治体の予算案に見える、「いま」に応え、「未来」を創る姿勢

小林 清 小林 清 明治大学 専門職大学院 ガバナンス研究科 教授

「いま」も「未来」も実現に向かうのが自治体の仕事

小林 清 先にも述べたように、将来の望ましい都市像、地域像に向けて、自治体の総合的な戦略となる長期ビジョンを策定することは、自治体政策の集大成であり、長期的視点に立った自治体経営のベースになります。

 もちろん、自治体の活動の基本は、住民の「いま」の要望に応えることです。

 待機児童対策をしっかりやって欲しい。地域振興のために商店街の活性化や中小企業対策に力を入れて欲しい。さまざまな要望があるでしょう。地域の人たちが、それぞれの要望を声に出すことは自治の観点からとても重要なことです。

 ただ、こうした「いま」の要望を、長期的視点から捉え直した時、「未来」においてもそのまま継続する要望となるのでしょうか。あるいは、項目としては残るけれど課題や対策の内容は変化していくのでしょうか。

 「未来」を考えるとき、まず大切なことは、現在の私たちの立ち位置を確認する必要があります。まちづくり、防災、教育、少子高齢化、産業、雇用、IT・通信など情報化、住民生活、環境など、それぞれが平成の30年間でどのように変化したのか。その上で、今、進行しつつある社会の潮流や、今後起こり得る大きな変化、変革を捉えていかなければなりません。

 そして、目標となる将来の年次を念頭に、私たちが目指すべき「未来」の姿(都市像、地域像、あるいは生活像)とはどのようなものであるかを提示して、その実現のための課題を整理していきます。

 最後に、組織の力を結集して、行政計画として各分野に及ぶ総合的かつ広範な政策展開を示し、分野横断的な視点も組み込みながら、長期的な戦略として描き、長期ビジョンに仕立てていくわけです。

 このように、望ましい未来の姿やその実現のための課題を起点にして、今、何をすべきかを導き出す思考法を「バックキャスティング思考」といいます。反対に、現状の社会構造や規制・ルールなどを前提として帰納的に戦略を立案するのは「フォアキャスティング思考」ですが、最近、長期戦略を立てるときに「バックキャスティング」を活用する自治体が増えています。

 また、長期ビジョンなどの行政計画は、首長にとっては選挙を通じて住民に約束した公約を実現するための書であり、その意味では政治機能を有するわけですが、同時に、自治体の首長は行政機関のトップでもあるので、多くの職員を抱える組織を統治していくためのツールとしての経営機能も持っています。策定に当たっては、首長がリーダーシップをどう発揮していくかも見どころです。

 もう一つ、先ほどの文化政策と長期ビジョンの関係でいうと、文化政策は一つの行政分野ですが、同時に、まちづくり、福祉、教育、産業など各行政部局を横断した総合的な政策として捉えてこそ、その効果を発揮できます。まさに、今求められる文化政策の方向とは、行政分野を貫く理念としての文化政策ですが、こうした方向性は長期ビジョンの策定の中で具体化していくことができると思います。

 皆さん、ここまでの内容をどのように受け止めていますか。私は、東京都に34年間勤務した実務家教員なので、そうした立場からの視点や経験を織り込み、自治体の仕事に魅力を感じてもらえるよう、お話をしてきました。

 一貫してベースにあるのは、自治体が、直面する課題と将来を見据えながら、どのような政策を進めようとしているかについては、予算と計画(長期ビジョンなど)に反映されることです。このように、行政の仕事とは「いま」に応えながら、一方では、20年後、30年後の都市や地域のあり方を考えて、「未来」への道筋となる総合的な長期ビジョンを策定し、多彩な政策を展開していくことになります。

 自治体の行政運営をチェックする時、住民の皆さんには、次の年の政策を示す予算とともに、是非、自らも参画していく意識を持ちながら、長期ビジョンや長期戦略にも注目してもらいたいと思います。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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