2024.03.14
働き方改革は、「自分らしく働く権利」のために
清野 幾久子 明治大学 専門職大学院 法務研究科 教授みんなにとって働き続けられる職場環境づくりが勤労の権利の充実に繋がる
多様で柔軟な働き方は、雇用形態に関わらない公正な待遇の確保とも関係します。これは、企業が、正社員と同じ条件で働く非正規社員の、正社員との待遇差の解消に取り組むことによって達成されます。
最近は、転勤がないなどの理由で非正規社員を選択する人も多いので、そうした働き方を認めつつ、待遇差を解消する努力をする企業がでてきているとききます。良い流れであると思います。
しかし、気をつけたいのは、正社員の方の手当などを減らすことで待遇を平準化するという方法も考えられることです。日本の企業の給与体系は手当が非常に多いのですが、その内容を検討して整理し、さらに基本給を見直すことも必要かもしれません。その場合、正社員の方には「痛み」が生じることもありえます。
また、今後は、一日8時間労働が標準であっても、6時間だけ働きたい、あるいは自宅で働きたいという人たちに柔軟に対応することと、そのような多様な働き方に対して、公正な待遇を行うことが課題になってくると思います。例えば、6時間働く人は、給料は一般の8分の6になるものの、昇進などのハンデはない、という仕組みを作っていくことが必要なのですが、ヨーロッパなどではすでに以前から試みられていることです。
確かにこの意味での「多様で平等」な働き方をほとんど認めてこなかった日本の企業では、それを認めることになったとき、それに対していかに公正な評価や条件をつけ、待遇を決める仕組みをつくるか、ということはとても難しいことだと思います。
しかし、少子高齢化が急激に進行している日本で、一日6時間なら働けるという、意欲をもっている高齢者に働き続けてもらうことや、家庭に幼い子どもや介護が必要な高齢者がいるが、自宅勤務なら働けるという人たちに働き続けてもらうことは、その人たちの勤労の権利であるとともに、社会にとっても重要なことです。
そのためにも、みんなが働きやすい、みんなが働き続けられるという仕組みと職場環境をつくること=良い労働環境で働き続けるための仕組みづくりは、もう喫緊の課題なのです。
ところで、働き方改革関連法の施行に合わせ、社員が働く環境について話し合う機会をもつ会社が多いといいます。すると、30代、40代の人は熱心に議論するものの、定年が近いような人たちはあまり興味を示さないというのです。
確かに、30代、40代の人たちにとっては、働き方改革はとても身近な自分の問題です。この世代では結婚して共働きの人も多いため、男性も女性も、子育てや家事を分担しています。男女とも、子どもを保育所や幼稚園に預けに行ったり迎えに行くことは日常生活の大切な仕事で、子どものお迎えのために30分早く会社を出られるかどうかは重要な問題です。そのような人たちの声に職場のみんなが耳を傾け、その立場を想像することは、とても大切なことです。
定年間近の人たちも、子育て世代の人たちにとって働きやすい職場環境とは、自分自身も定年後に働き続けやすい職場環境になることを、改めて考えてみてください。そうした職場環境づくりに社員みんなが声を上げることが、まさに勤労の権利の主張であり、それは憲法27条の新たな解釈に適うことなのです。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。