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グローバル化する憲法 ―求められる人権保障の多層的システム―

江島 晶子 江島 晶子 明治大学 法学部 教授

「人権」を実現するシステムの課題

江島晶子教授 では、現在の、日本の人権保障システムはどうなっているでしょうか。日本国憲法が規定する人権は、第二次世界大戦終結当時の「最新装備」でした。その後、日本国憲法の下で、様々な国際人権条約を批准することによってアップデートしてきました。
これにはどのような意義があるのでしょうか。第一に、国際人権条約は、人権を一般的に規定するだけでなく(自由権規約・社会権規約)、たとえば、女性、子ども、障害者(女性差別撤廃条約、子どもの権利条約、障害者権利条約)と人権侵害を受けやすい対象に注目したり、拷問や人種差別(拷問禁止条約、人種差別撤廃条約)のように人間としてもっとも受けたくない行為に注目したりしています。各国の過去および現在の経験を踏まえて、「現在、何が問題なのか」に条約はより注目しているわけです。
第二に、国際人権条約が設置する条約機関が各国の人権状況を監督します。条約に参加すると、政府は定期的に条約機関に自国の人権状況について報告書を提出し、条約機関がこれを審査して評価をします。その際、人権NGOが政府とは別の観点から情報提供を行う機会もあります。現代社会では、たとえば、企業も大学も情報を公開し、それに基づき投資するか、商品を購入するか、入学するかなどを決定します。外部の評価を意識して改善に励むのは自然なことですし、評価の真価を上げるために第三者機関の評価も取り入れます。これと同じことが国家についてもいえます。政府報告書とその審査は、各国にどんな人権問題があるのか、どのような対応をしているのか(していないのか)を知る有用な機会です。また、他国の対応には、自国の問題を考える上でのヒントがあるかもしれません。審査を「批判」ととらえれば、誰しも批判は避けたいところですが、「情報」、「助言」、または「診断」として受け止めればより有効な活用ができそうです。前述した最高裁の違憲決定は、こうした長い対話のプロセスを経て到達した一帰結としてみることができます。
では、この長いプロセスをもう少し短縮できなかったのでしょうか(最高裁が指摘するように自由権規約委員会は1993年にすでに勧告しています)。実は、他にも有用な仕組みがあります。たとえば、個人が国際機関に直接人権問題を通報できる手段(日本は未批准)や、国連パリ原則として推奨されている国内人権機関の設置です(日本では未実現)。これらは国際システムと国内システムをより実効的に接合します。日本の課題は、日本の統治システムにおいては、人権について国内外の意見を迅速に活用する多層性が十分ではないことです。

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