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グローバル化する憲法 ―求められる人権保障の多層的システム―

江島 晶子 江島 晶子 明治大学 法学部 教授

人権の多層的保障とは:外国における法改正、国際機関の勧告

昨年、最高裁は画期的決定を下しました。結婚していない男女の間に生まれた子の法定相続分を嫡出子の半分と定める民法の規定が、法の下の平等を保障する憲法に違反すると判断したのです。この判決は、「人権保障の多層的システム」という観点から、興味深いポテンシャルを有しています。実は、最高裁は、1995年の裁判では同じ規定を合憲と判断していました。何が判断を変えさせたのでしょうか。理由を簡単に言えば、婚姻や家族の形態の多様化、人々の意識の変化です。しかし、最高裁はこれに加えて、外国における法改正、国際機関の勧告などを挙げています。
なぜ、外国における法改正が関係するのでしょうか。日本法は、明治の近代化の際に欧米法をモデルとしており、欧米法の強い影響を受けてきたからです。そして、欧米諸国の法もかつては婚外子を法的に差別していました。1947年の民法改正の議論の際には、こうした立法例がさかんに参照され日本法に影響を及ぼしました。ところが、20世紀後半以降、多くの国は法的差別を撤廃する方向に乗り出しました。最高裁はそこに注目します。とりわけ、1995年の合憲決定の時点では差別を温存していたドイツ法やフランス法が、今や差別を撤廃したことを重視したわけです。こうした法改正の背景には、もう一つ重要な契機が存在します。1979年にヨーロッパ人権裁判所(国際機関)が、婚外子を差別するベルギー法はヨーロッパ人権条約違反だと判断したことです。それが、さらにヨーロッパ諸国の法改正を後押しします。最後まで差別立法を温存していたフランスも、2000年に同裁判所から条約違反と判断され、2001年に法改正を行いました。
それは外国の話だといわれるかもしれません。そこで注目されるのが、最高裁が同時に言及している国際機関の勧告です。自由権規約委員会や子どもの権利委員会は、日本に対して、再三、差別是正の法改正を勧告してきました。条約を批准している日本は、条約の保障する人権を実現する義務を負っています。また、これらの条約には、前述した、ベルギー、ドイツ、フランスのみならず、世界中の多くの国が参加しています。今や、こういえるのではないでしょうか。各国の取組みの蓄積が国際基準を変えていく流れがある一方、確立し始めた国際基準が国家に浸透していく流れがあり、人権基準の確立をめぐって相互に影響を及ぼし合うダイナミックな多層的・多元的構造(多層的人権保障システム)が出現していると。

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