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行政はなぜ必要?なくては困るが、甘えすぎも要注意!

西村 弥 西村 弥 明治大学 政治経済学部 准教授

本質的には、私たちがどのような社会を望むのかが問われている

西村 弥  もうひとつ、行政の事務事業を民営化し、市場のなかでコントロールするという方法があります。確かに、民営化することで業務の透明性が高くなり、効率性も高まるように見えます。

 実際、日本郵便、NTT、JT、JRなど、成功している例が多いように思われます。しかし、これらは株式会社化されましたが、実は、JR東日本や東海など一部を除き、ほとんどの会社が特殊法人(特殊会社)の形態をとっています。社長の交代や、毎年の事業計画とその予算については、主務大臣の認可が必要という仕組みです。

 これは、完全に市場に任せては、市民生活の安全性や利便性を確保できなくなる恐れがあるからです。

 例えば、過疎地域の鉄道は採算が取れないとき、普通の私鉄であればもっとはやく撤退するでしょう。それが、地域住民にとっては欠かすことのできない交通手段であってもです。

 普通の宅配業者であれば、一部離島には配達できません、と明言できますが、日本郵便は82円で全国どこにでも封書を届けます。つまり、一概に行政の事務事業を完全民営化すれば良いというわけではなく、事業内容や、社会環境、経済環境などにより、どういうスキーム(枠組み)が最適なのか、慎重に議論する必要があるのです。

 重要なのは、この議論を政治家や有識者などに任せるのではなく、私たち国民も自分事として関心をもち、参加することです。それは、行政の民営化の問題だけではありません。

 先に述べたように、民主制において、公務員や官僚は私たちの代理人です。その仕組みや制度をどのようにするのかは、私たち自身の問題であり、それは、私たちが、どのような社会を望むのかを問うことでもあるのです。

 アメリカのように、一人ひとりが自由や自立を強く求める社会であれば、自助や共助、自らの責任が前提となり、行政の介入の度合いは低くなります。

 それに比べると、日本は公助が発達した社会で、行政にきめ細かい対応を求めます。しかし、日本はこれから人口が縮小し、高度成長も望めない経済環境に入ります。今後は、受益と負担がさらに大きな問題になってくるでしょう。

 行政機関に対して、何をどこまで要望するのか。その要望が高まるほどに、相応の負担が高まることに覚悟があるのか。それが問われる時代に、私たちはさしかかっているのです。

 近年では、選挙の投票はもちろん、パブリックコメントやパブリックインボルブメントの形で、住民の声を政策決定に反映する取り組みが増えています。

 重要なのは、私たち自身が、こうした取り組みを他人事と思わず、私たちの社会をどのような社会にしていきたいのか、それに関心をもち、声をあげる機会に積極的に参加することです。“丸投げ”が、いつまでも続けられると思ってはいけないのです。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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