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衰える結婚、止まらぬ無子化 ――このままでは日本の未来が失われる

加藤 彰彦 加藤 彰彦 明治大学 政治経済学部 教授

無子化の現実を直視して、結婚支援を国民運動に

加藤 彰彦 一方、手助けですが、無子化社会対策としては、結婚支援が何よりも重要です。その具体策については、1950年代から1970年代にかけて展開された産児制限運動(家族計画運動)が参考になります。これは、避妊によって子ども数を2人に制限する、官民あげての国民運動であり、指導員(保健婦、助産婦、看護婦など)が全国津々浦々の地域と家庭を訪問して、少産少子が生活を豊かにすると説きながら、受胎調節方法を指導して回りました。指導は妊娠・出産にとどまらず、台所の衛生、栄養管理、教育、核家族の奨励など家庭生活全般の近代化を志向したため、新生活運動とも呼ばれます。こうして子宝志向の強い農村部にも、多産多子を「恥」、少産少子を「進歩的」とみなす価値観を広めました。わずか10年間で合計特殊出生率が4程度から2レベルまで一気に低下した背景には、優生保護法制定(中絶合法化)とともにこの運動の大展開があります。もちろん現在では、このようなハードな国民運動を展開するのは不可能でしょうし、「少子による豊かさの追求」という価値観が今日まで止むことなく拡大し続けたことを思えば、運動のやり過ぎ・行き過ぎは禁物です。しかし、恋愛下手・交際下手の若者とその親を対象に、当事者の意思と人権を尊重しながら、自治体、NPO、地域社会、商店街、企業などが連携支援することは、やる気さえあれば十分に可能ですし、すでに地方では小規模ながら行われています。そのためには、まず児童手当の大幅拡充によって「先立つもの」を保障することが不可欠です。国民運動というスタイルには、たとえソフトな形であっても、イデオロギー的な反発が生じるかもしれません。産児制限運動以来の思想史を考えれば、その気持ちもわからぬではないですが、平成の30年間が終わり、新元号を迎える日本が、子どもの生まれない無子化社会になっていること、無子化社会は若い男女が異性関係を持たないだけでなく、異性関係を持てない社会でもあることを肝に銘じてほしいと思います。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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