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衰える結婚、止まらぬ無子化 ――このままでは日本の未来が失われる

加藤 彰彦 加藤 彰彦 明治大学 政治経済学部 教授

結婚・家族形成には「先立つもの」が必要

加藤 彰彦 それでは、どのような対策をとればよいのでしょうか。答えは極めて常識的なものです。すなわち、結婚・家族形成にはお金と手助けが必要ですが、今の若い世代にはこの両方が欠けているので、積極的に補うことが対策の本筋になります。

 もちろん、結婚や出産は当事者が決めるのが原則です。家族をつくらず、生涯独身で生きるという選択もあるでしょう。しかし社人研の調査によれば、現在なお、20代後半の未婚者の9割は「いずれ結婚するつもり」と回答しています。彼らに結婚への最大の障害をたずねると「結婚資金」が最多で男女とも5割にのぼります。また、理想の子ども数として3人以上を挙げる夫婦はまだ4割程度おり、家族志向・多子志向の女性も少なくありません。実際に3子以上を実現できる女性は多くはありませんが(図1)、理想を実現できない理由として7割の夫婦がお金の問題を挙げています。それゆえ、まずは「先立つもの」の支援が重要です。

 エコノミストたちは、子ども1人を育て上げるのに2千万から3千万円かかると試算してきました。雇用が不安定化するなかで、第3子を持つことは非常に困難です。金銭的負担が理由で子どもを持てないのであれば、児童手当の多子加算や低所得者加算を実施する対策が考えられます。例えば、都市部に比べて、住居が広く、ジイジ、バアバをはじめ、親戚、ご近所、地域に根ざした保育施設など、育児の手助けが多い地方では、「子宝」という家族的価値観をもっている人びとがまだ残っています。しかし地方では、特に雇用が不安定で収入も少ないのが実状で、そのために結婚も出産もできない若者たちが増大しています。それゆえ、児童手当を拡充して、母親のパート収入程度の現金給付を行えば、結婚と出産を増やすことができ、地方創生にもつながるでしょう。実際、現在ドイツでは出生数が増加しベビーブームと報道されていますが、その大部分は手厚い児童手当の給付を受けた多子志向のムスリム女性たち(シリア難民など)による出産増です。こうしたブームはドイツ人女性にもポジティブな刺激を与えていることでしょう。現金給付には批判がつきまといますが、公務員や大企業の社員は、公的な児童手当に加えて職場からも扶養手当をもらってきたという事実を、政策立案者は決して忘れてはなりません。職場から扶養手当をもらうことのできない不安定若年層に、エリート層や安定層に準じた基礎的生活費を児童手当の大幅拡充により保障することがこの政策のキモです。

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