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いま、地域活性化の目玉として変貌する公立図書館に注目したい

青柳 英治 青柳 英治 明治大学 文学部 教授

公立図書館への指定管理者制度導入に反対する地域が出ている

 こうした背景のもと、公立図書館のあり方も変わってきています。その1つが、2003年に地方自治法の改正にともなって導入された指定管理者制度です。この制度は、公共施設の管理・運営を民間事業者などに委託し、その知恵や創意工夫によって施設のサービスを向上させ、かつ、経費節減を実現できると考えられているもので、公立図書館でも導入が進んでいます。日本図書館協会の調査によると、2015年現在、市区町村立図書館への導入率は14.6%で、導入数は469館となっています。この制度の導入により、開館日が増えたり、自動貸出機の導入によって本の貸出や返却手続きがスピーディになったり、スタッフに司書有資格者が増えるなどの利点が挙げられます。カフェなどが併設されて話題となった図書館の報道を目にしたことがある人も多いのではないでしょうか。このように見てくると、利用者にとってはサービスの向上につながっているようですが、実は、地域住民が指定管理者制度導入に反対する運動を起こしている地域も出てきているのです。

 まず、大きな問題は、経費節減が主目的になってしまうことです。地方公共団体は、より少ない予算での運営を求めるため、指定管理者は、経費節減に努めることになります。地方自治法により指定管理者との契約は、たとえば3~5年といった具合に期間を定めて行い、見直す必要があるため、運営の継続が保証されていません。そのため指定管理者は、図書館で働く司書の安定雇用を保障できず、経費節減のために低賃金で、しかも有期雇用の非正規社員として雇うことが多くなります。いわゆる官製ワーキングプアを生み出す要因にもなっているのです。次に、そもそも公立図書館は、図書館法により入館や図書館資料の利用にあたり対価徴収できないと定められているため、指定管理者は図書館から事業収益を見込めません。そのため、指定管理者の中には新古書店の資料を選定し購入することで、利益を上げようとするケースも見られます。しかし、それでは指定管理者が入手しやすい本が並べられ、利用者が求める本が少なくなるということにもなりかねません。図書館本来の機能である、適切な本を選ぶという選書機能が働かず、市民の知る権利を守るという観点からも問題です。さらに、指定管理者には、利用者がどんな本を借りたのかという個人情報を保護し、しっかり管理することが求められますが、その管理体制が確立できているのかも不安です。これでは、中長期的な展望をもち、質の高いサービスを提供していくことは難しくなります。こうした点から、公立図書館の指定管理者制度導入に反対する地域が出てきたということです。実際、地方公共団体の直接運営に戻した図書館が2016年度までに 14館あります。 地域の情報拠点という役割が今後も高まる公立図書館では、地域住民の意見も参考にしながら、図書館のあるべき姿を検討していくことが重要です。

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